Netflix韓国ドラマヒットの裏で拡大する韓国産OTTとグローバルIP戦略

韓国在住K-dramaライターMisa
2021年の韓国ドラマを取り巻く環境の変化と、韓国コンテンツ業界の今後の展開について、韓国国内で最新情報をウォッチしているドラマ好きの視点で分析・予想します。

韓国ドラマの転換点となった2021年

2021年は、韓国ドラマにとって歴史的なターニングポイントとなる年でした。

Netflixオリジナル「イカゲーム」が世界ランキング1位、世界で1億アカウント以上が視聴するという快挙を成し遂げ、その後の作品でも次々とランキング上位を取得。


(出典:Netflix Korea)

まさに「韓国ドラマが世界的に大ヒットした」という印象を世の中の人々に強く与えた年だったと思います。

コロナ禍の日本で2020年上半期に「愛の不時着」がブレイクし、「冬のソナタ」以来の大ブームが起こったことも全くの想定外でしたが、まさかその1年後に、更に世界規模の韓国ドラマブームが世界で起こるとは…。

韓国ドラマの進化の歴史を追ってきた、コアなドラマファンの一人として、今年は、地上波からケーブル局の時代へと移り変わっていった2011年頃に次ぐ、もしくはそれを超える大転換期だったと思います。

地上波からケーブル局の時代への移り変わりについてはこちら

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しかし、私が2021年を「大転換期」と捉えている理由は、実は、Netflixオジリナルの世界的ヒットだけではありません。

どちらかというと、Netflixでのブームを横目に、韓国産のOTT(Netflixのような動画配信サービス)の躍進もめざましく、ドラマの見方や作品の形が大きく変化した年だったからです。

テレビ放送のないOTTオリジナル作品が急激に増加
→テレビでの視聴に加えて複数のOTTに同時加入して視聴する状態に

1話の尺が短く、10話以下の作品が増加
→スキマ時間にも韓国ドラマを見るように

結果的に年間のドラマ作品数が急激に増加
→これまでと比べても2〜3倍ぐらいに作品数が増えた感覚

映画監督のドラマ制作が増加
→制作者におけるドラマと映画の壁があいまいに

日本でも、自分の好きな俳優の作品や、韓国国内の最新作を常にチェックしているコアなファンの方々は、この感覚、とても良くわかるのではないかと思います。

これまでは、TVNとJTBCのテレビ放送作品を主に追っかけていればよく、日本では特に、注目作の多くがNetflixで配信されていました。

しかし今年は急に「この作品はカカオTV」「この作品はクーパンプレイ」といった、テレビ放送なしの韓国国産OTTのオリジナル作品も増加。

作品ごとに「え、また違うプラットフォームなの?」という感じで、追っかけるのがめちゃくちゃ大変…。
ちなみに私も現在、Netflix以外にOTTサービスを同時に3つ利用しており、全作品追っかけるには、さらに2つ新しく契約しなければならないかも…という状況になっています(笑)
日本では今や、韓国ドラマ=Netflix、Netflix=韓国ドラマというイメージが強いのではないかと思いますが、実は韓国国内では、国産OTTの動きも活発であり、来年はこの動きが日本にも大きな影響を与えると思われます。
今日は、2021年に起こったNetflix作品の大ヒットを韓国国内ではどう捉えたのか?と、国産OTTの戦略や今後の展開について、自分なりにまとめてみたいと思います。

Netflixオリジナル作品の世界的ヒット

2021年、韓国国内では、Netflixオリジナル作品「D.P.」が今年8月にヒットする以前は、実はNetflixの加入者は減少傾向にありました。
「D.P.」や「イカゲーム」など、テレビ放送のない本当の意味の「Netflixオリジナル」作品以外は、韓国ではテレビ放送と国産OTTでも観ることができたため、「Netflixでなければ見られない作品」というのは数えるぐらいしかなく、それらにヒット作が生まれていなかったからです。

2021年上半期、日本でNetflixの韓国ドラマが盛り上がる一方で、韓国国内ではこんな内容の記事が多く見られました。

Netflixの墜落・国産OTT加入者増加傾向
→Netflixの月間利用者数は1月をピークに3ヶ月連続で減少
→国産OTTはオリジナルコンテンツ投資を増加。Wavve,TVINGの利用者増加傾向
これは、利用者の一人としても、とても実感値のある内容でした。
韓国で放送される全ドラマのうち、Netflixで同時配信される作品はごく一部。
そして、Netflixで配信している作品すべてが、韓国国内では同時にテレビ放送&国産OTTサービスでも見られるため、本当にNetflixでしか観ることのできないオリジナル作品を観る以外は、契約しているメリットがあまりなかったのです。(過去作品に関しても、ドラマだけでなくバラエティまで見られる国産OTTのほうがラインナップが豊富)
普段、韓国語字幕や日本語字幕を利用する私でさえも、「もうTVINGで観ればいいし、オリジナルが面白いときだけ利用すればいいかな」と思って、一時期、解約を考えていたほど。
しかし、Netflixもオリジナルコンテンツこそが利用者拡大のキーであることは十分に理解していて、2月に韓国で開かれたオンライン記者会見「See What's Next Korea 2021」では、韓国コンテンツに約520億円を投資し、13のオリジナルコンテンツを公開することを発表していました。
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これらの2021年公開オリジナル作品は韓国でもテレビ放送がなく、Netflixに加入しなければ見られない作品
作品名話数監督(出身)公開日(2021年)
「恋するアプリ Love Alarm シーズン2」6話キム・ジヌ
(ドラマ)
3月12日
「Move To Heaven:私は遺品整理士です」10話キム・ソンホ
(映画)
5月14日
「キングダム:アシン伝」1話キム・ソンフン
(映画)
7月23日
「D.P.− 脱走兵追跡官−」6話ハン・ジュンヒ
(映画)
8月27日
「イカゲーム」9話ファン・ドヒョク
(映画)
9月17日
「マイネーム」8話キム・ジンミン
(映画)
10月15日
「地獄が呼んでいる」6話ヨン・サンホ
(映画)
11月19日
「静けさの海」不明チェ・ハンヨン
(映画)
12月24日予定
「今、私たちの学校は」不明イ・ジェギュ
(映画・ドラマ)
2022年に延期

上半期に配信された作品たちは、比較的これまで地上波でもあったようなタイプの作品や、オリジナルシリーズの続編でした。

そして、ジャンルや素材自体が斬新でニッチな層に深く刺さる作品が出始めたのが、まさに8月の「D.P.− 脱走兵追跡官−」以降。

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ここからの快進撃は、皆さん御存知の通り。こうやって振り返ってみると、今年のNetflixオリジナル作品には共通している特徴がいくつかあります。

「映画監督が手掛けたドラマ」が多い
1話あたり50分程度 ✕ 8話前後のコンパクトさ
原作マンガ・ウェブトゥーンがあることが多い
続きがありそうな終わり方で終わる
映画監督が、これまでのドラマと映画の間ぐらいのフォーマット(8話前後)でニッチジャンルの作品を制作しているというのがとても特徴的です。
そういう意味では、往年の韓国ドラマ好きとしては、これらNetflix作品は韓国ドラマであって、韓国ドラマではないような感覚がしたりもします。
しかし、ここにはNetflixの明確な戦略が伺えます。
テレビ放送作品との差別化という意味で、テレビでは作れないニッチジャンルの作品を、これまでの韓国ドラマ視聴のハードルとなっていた1話あたりの長さ・話数の多さを解消するコンパクトなフォーマットで制作すること。
まずは、短期間で確実にヒットする作品を制作し、「Netflixオリジナル=面白い・クオリティが高い」と印象づけるため、人気のある原作を元にした作品を映画監督に依頼。1年間で集中的に配信すること。
前半の作品では、監督が映画出身でも、脚本はドラマ脚本家であるケースもありましたが、ヒットした作品ほど、監督自身が脚本を手掛ける、もしくは映画脚本家・原作作家が脚本を手掛けており、より「これまでの韓国ドラマっぽくないもの」がウケているのも興味深い点です。
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韓国では、俳優もクリエイターも「新しいチャレンジを続けたい」というマインドが強いため、Netflixのこの戦略は、作り手のニーズとも見事に一致するものでした。
特に、「金は出すが口は出さない」というNetflixが提供する制作環境は、韓国国内のクリエイターたちにとってはとても魅力的なものだといいます。
また、制作した作品が一瞬で、国内だけでなく世界の視聴者に向けて配信され、その反応が見られるというのも、非常に大きなメリットでしょう。

Netflixを取り巻く様々な議論

一方で、このNetflixでの韓国コンテンツの制作・配信は、ビジネスの側面から見た時には様々な問題点があることが、韓国国内ではこの大ヒット以前から継続して指摘・議論されてきました。

IP保有・利益還元モデルの問題

最も大きいのがIP(知的財産権)をどこが所有するのか?という問題です。

Netflixオリジナルの場合、制作費をNetflixが100%を負担し、配信権のみならずすべてのIPをNetflixに譲渡する代わりに、制作側にマージンを支払うという構造になっています。

このマージンは、制作費に対して一定の割合で事前に支払われるもので、もし作品が大々的にヒットしても、制作側は一切の追加収益を得ることができません。

テレビ放送する作品では、放送局が制作費を100%までは負担しないため、制作会社はPPL(関節広告)を入れたり、OSTを販売したり、放送以外の国内外のプラットフォームに二次販売することで、制作費を回収&利益を確保してきました。

それと比較すると、事前に100%の制作費&一定の利益を保証され、その制作費規模もテレビ作品よりも大きいNetflixオリジナル作品は、制作の観点だけで観ると、安定的で魅力的な側面もあります。

一方で、コンテンツビジネスという観点では、「むしろ放送局作品の時代よりも、IP保有に関しては退化している」という声もあります。

以前は、放送局が制作費を100%出さないにも関わらず、権利のほとんどを持っていってしまうという時代がありました。

特に2000年前後から「海外でも韓国ドラマが売れる」ということを実感してきた制作会社と放送局は、「IPをどこが保有するか?二次収益をどうやって分配するか?」については長年に渡って協議を続け、昨今では、二次的な収益を放送局だけではなく、制作会社が受け取れる比率も高まってきていたところだったのです。

Netflixを通じて、韓国ドラマが世界で人気を拡大していく一方で、韓国国内では早くから、シビアにこのビジネス構造の問題点と対策について様々な議論が行われてきました。

そして、その議論はいよいよ、今回「イカゲーム」の大ヒットでますます決定的になります。

今回、Netflixは制作費約253億ウォンを投じて、約1兆600億ウォン以上の収益を得ましたが、これに対して、制作会社が得た利益はその10分の1程度と言われています。

最初の契約はあくまでも、事前に支払われる制作費とインセンティブだけだったことから、ファン・ドヒョク監督が「いくらヒットしても追加の収益がない」ということを発言したことを受け、Netflixが急遽、制作会社に追加のインセンティブを支払ったという話も話題になりました。

また、例えば、ハロウィンの時期には「イカゲーム」のユニフォームや小道具に似せた関連グッズが世界中で爆発的に売れましたが、もちろんその収益は制作側には全く入らなかったことも問題視されました。

これに対し、Netflix側は、これまで他の人気シリーズの例を挙げ、「シーズン1がヒットし、同じ制作者とシーズン2を制作する場合、シーズン2では制作者側の報酬がより拡大する形式で契約する」と発言しており、今後はこの契約形式についても、もう少し制作者側に収益が入る形が模索されると思われます。

業界をあげた議論と法整備

しかし、韓国コンテンツ業界では、この問題の解決をもはやNetflix側だけに委ねていません。

まさについ先日、国会立法調査所という政府機関が、刊行物にて「グローバルOTTと契約した国内コンテンツ制作者が、公正に収益を確保できるよう、収益情報の開示と追加収益を確保する法案を検討する必要がある」という立場を示しました。

来年以降、韓国国内で法整備が具体的に進む可能性も非常に大きいと思います。

韓国に住み始めて、これらの国内の動きがわかるようになってから、凄いなと思うことは、韓国では、単なるコンテンツ制作という視点にとどまらず、IPビジネスのあり方についての議論や試行錯誤が、業界をあげて20年以上前から非常に活発に行われてきたということ。

日本ではよく、韓国でこれだけのコンテンツが誕生している理由を「コンテンツ産業が国策だから」と説明されることがありますが、私はむしろ、コンテンツ制作力は民間の努力であり、IPビジネスの観点での、業界・国を上げてのこういった取り組み・研究が日本より遥かに進んでいると感じます。

IP保有と収益分配に関しても、諸外国の事例を分析しながら、様々な議論と検討が現在進行系で進められています。

業界人でもない私が、ブログでこれだけの内容を紹介できるもの、韓国国内ではこういったコンテンツビジネスに関する議論、研究、セミナーが常に活発に行われており、それらの情報は一般人でも無料で閲覧できたり、関連するデータや文献が豊富に存在するからです。

韓国産OTTの躍進

そして、2021年に活発化した国産OTTへの投資も、まさにこれまでのIP議論が背景にあります。

「韓国はコンテンツ制作では優秀だが、プラットフォーマーとしては遅れを取っている」という危機意識が数年前からあり、「国産OTTの強化」が重要テーマとして掲げられてきました。

「愛の不時着」のヒット以降、日本で「韓国は制作スタジオが凄い」ということに注目が集まっていた2020年下半期頃。

韓国国内では、カカオTVがサービスを開始したり、地上波連合のOTTサービスWavveがオリジナルコンテツへの多額の投資を発表するなど、「すでに次なる変革の動きが始まっている」ということを、こちらの記事(2020年9月)でも紹介していました。

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主要なものを抜粋。これ以外にも通信会社系のOTTなどもある

現在、月間利用者数ベースでは、WavveがトップのNetflixの約半分に迫る数、TVINGがそれをわずかに追いかける状況にあります。(2021年9月時点)

2021年は、これらの国産OTTサービスが、いよいよユーザー確保のためにオリジナル作品を本格配信しはじめました。

カカオTVでは特に、1話30分以内の短編ドラマを制作。

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さらに、ここにグローバルOTTである、AppleTV+、Disney+も人気俳優の主演作を目玉として韓国でサービスを開始し、まさに「OTT戦争・元年」であったと言えます。

韓国コンテンツ業界が目指すもの

韓国コンテンツ業界が目指しているものは何でしょうか。

実は、Netflixのようなグローバルプラットフォームを作ることは、手段の一つでしかありません。

魅力的なコンテンツのIPを保有し、一つのIPからドラマ・映画・アニメ・ゲーム・音楽・グッズ…など、多角的にコンテンツを展開して収益を最大化すること。

こういったIPビジネスを世界的に展開することが真の狙いであり、それを念頭に置いて戦略が練られているのです。

そもそも1990年代後半に、韓国がコンテンツ産業を国の重要な産業の一つとして選定したのは、コンテンツビジネスが”高付加価値産業”であることに注目したからです。

コンテンツ産業は、コンテンツそのものが人気を得られれば、比較的少ない追加投資で様々な分野に二次展開が可能で、ビジネスの波及効果が大きい。また、コンテンツを通じて韓国という国自体の魅力を世界にアピールすることもできる。

この戦略は、すでに20年以上前に設定されており、それを念頭に、これまでコンテンツ業界が様々な取り組みを行ってきたことが、韓国国内の記録には残っています。

この20年の取り組みを踏まえると、近年の韓国コンテンツの世界的ヒットは必然であり、さらにもっと、先の未来を見据えているということがわかります。

この約20年の間、コンテンツ業界を取り巻く環境自体は、大きく変化してきました。

ブロードバンドの普及、動画コンテンツの広まり、グローバルなコンテンツ戦争…20年前には予想できなかったほどの、環境の目まぐるしい変化に柔軟に対応しながら、世界で韓国コンテンツが認められるようになったのは、根底に明確な戦略があったこと。

そして、「スピード重視で、とりあえずやってみる」「常に変化を求める」という韓国らしさが強みになったのではと思います。

一方で、Netflixなどのグローバルプラットフォーマーがコンテンツ業界で強い存在感を示している今の状況も、また数年後には変化している可能性も少なくありません。

IP戦略を検討する上では、常にこれらの環境の現状と未来を数年先まで見通しながら、活発な議論がかわされています。

制作スタジオ・Netflix提携の真の狙いは?

こう考えてみると実は、昨今の日本での韓国ドラマ再ブームを作ったNetflixとスタジオドラゴン(「愛の不時着」制作)、ジェイコンテンツリー(「梨泰院クラス」制作)の提携に、別の戦略が見えてきます。

この契約では、Netflixが作品の制作費を負担する代わりに、各種権利のほとんどをNetflixに譲渡する条件になっていると言われています。
*おそらく、Netflix独占配信のオリジナルシリーズと、テレビ放送も同時に行う「愛の不時着」などの作品では、権利の持ち方の比率が異なると思われます。

単なるドラマ制作会社という枠を超えて、IP戦略をより推進するために作られたはずの制作スタジオが、設立間もない2019年の段階で、Netflixと権利まで譲渡する契約を結んだ理由は何でしょうか?

今見ると「3年間」という部分に、非常に秀逸な戦略を感じます。

おそらく、2019年の時点で、その後数年はNetflixがプラットフォーマーとして世界の国々でユーザーを増やしていくことは明らかだったでしょう。

将来的には、自分たちがIPを保有するコンテンツを世界に広めたいという戦略は、スタジオドラゴンもジェイコンテンツリーも同じ。

しかし、その時点ではまだ、国産のプラットフォームで世界に進出しているものはありませんでした。

そこで両社は、数年先の展開を見据えた上で、まずはNetflixと手を組み、権利を譲渡してでも「韓国コンテンツの魅力を世界に広めること」を狙ったのだと思われます。

興味深いのが、実はこのNetflixとの契約の前、2019年9月に、スタジオドラゴンの親会社であるCJ ENMと、ジェイコンテンツリーと同じグループのJTBCが連合を組み、2020年上半期から国産のOTTサービスでオリジナルコンテンツを制作することを発表していることです。それが、現在のTVINGです。

つまり、国産のOTTを拡大していく戦略を取りながら、ほぼ同時に将来的には競合となるNetflixとも手を組んだわけです。

そして、先日、TVINGは、2022年から日本にも進出。その他アジアの国を皮切りに、世界に進出していくことを発表しました。

こうして見てみると、スタジオドラゴンとジェイコンテンツリーが、同時期にNetflixと「3年」契約を結んだのも、2022年にはTVINGで自ら世界に出ていくことを見据えた上での契約だったことがわかります。

当時は、国内ではライバルにもなりうる両社がそれぞれNetflixと契約したように見えましたが、今となっては、互いに示し合わせて似たような条件で契約したのではないかと思えてきます。

ここでも凄いなと思うのは、「コンテンツビジネスを世界で展開する」という目的のために、国内ではライバルにもなりうる企業が柔軟に手を組むということ。

そして、「自前主義」に陥りすぎず、世界の流れを見ながら、利用できるものはうまく利用する。それでいて同時に、ぶれない戦略を確実に、スピード感を持って推し進めていく実行力がさすがです。

Netflixとの3年契約が終わる、2022年の末〜2023年の始めよりも前に、TVINGで自ら世界に進出し手応えを見ながら、Netflixとのその後の契約についても検討するのではないでしょうか。

さらに、両社は同時に、アメリカなど現地の制作会社の買収も進めています。これはやはり、狙いが単なるプラットフォーマーではないことを示しています。

TVINGが、Netflixと比べて弱い海外作品。プラットフォーマーとして、ラインナップだけを揃えるのであれば、配信権を買ってくればよいはず。しかしやはり、重要なのはIPを保有すること。

両社は、もともとが制作会社からはじまっているという強みを活かし、自分たちの制作ノウハウを現地の制作会社にも提供しながら、自分たちがIPを保有する作品を海外で制作し、グローバルにIPビジネスを展開する戦略を描いているわけです。

NAVER、Kakaoの動き

また、IPビジネスの世界展開を狙っているのは、制作スタジオだけではありません。制作スタジオとはまた別のアプローチで、積極的に動いている代表格がNAVERとKakaoです。

最近、NetflixやTVINGで展開されるドラマ・映画は、ウェブトゥーン原作ものが多いことは紹介しましたが、このウェブトゥーンのIPを多く保有しているのがNAVERとKakao。

NAVERは、2005年から韓国で「NAVERウェブトゥーン」サービスを開始。日本では、LINEマンガにも出資しています。

kakaoは、2013年から韓国でウェブトゥーンと小説をメインとした「カカオページ」運営。2018年にカカオMという総合エンターテイメント企業を設立し、出版社やウェブトゥーン関連の会社に出資するなど、IPを強化。今年にはウェブトゥーン専門の「カカオウェブトゥーン」をリリースして、これを通じてグローバルにコンテンツを展開していく戦略を示しています。

日本では、ピッコマを展開して、LINEマンガを抜いて日本のウェブ漫画市場でトップの地位を占めています。

両者ともウェブトゥーンそして音楽コンテンツを豊富に保有している強みを活かし、自社でプラットフォームを持ってコンテンツを配信していきながら、保有するIPを使った映像・アニメ・ゲームなどの展開を各企業と行っています。

Kakaoは、先に紹介したkakaoTVのコンテンツを作る制作機能や、芸能人のマネジメント機能まで持つ、垂直型の総合メディア企業として、大規模な投資や買収を行っているのに対し、

NAVERは、保有するIP自体を増やすことに注力し、自ら制作機能を持ちながらも、流通・制作に関しては、CJENMやNetflixなどともうまく連携してグローバル展開を行っていると言えます。

アーティストマネジメント会社の動き

映像作品を作れるのは良い原作があるから。良い原作が作れるのは、良い作家がいるから。

IPの源を抑えようとすると、それらを生み出すクリエイターをどれだけ確保できるか、どれだけ発掘・育成できるか、というところに各社たどり着きます。

そういう意味で、アーティスト(歌手、俳優)を抱える各マネジメント会社も、このIPビジネスに参戦してきている動きも見逃せません。

「キーイースト」など、出演俳優が所属するマネジメント会社が、俳優だけではなく作家やPD・監督を迎え入れ、自らドラマや映画製作を始めるケースも増えているし、BTSが所属するHYBEが、アーティストとコラボしたウェブトゥーンやアニメ、ゲームなどを展開する計画であることは、日本でも知られていると思います。

このように、「IPビジネス」という観点で韓国企業の動きを俯瞰してみてみると、全く強みの違う企業が、それぞれのアプローチでIPの世界展開を狙っている状況であることがよくわかります。

「イカゲーム」以降の世界

韓国コンテンツ業界では、最近よく「”イカゲーム”以前」「”イカゲーム”以降」という言葉で、韓国コンテンツを取り巻く状況や戦略の変化が語られています。

「イカゲーム」が世界的に大ヒットしたことで、韓国ドラマが世界に通用するクオリティであることが証明され、その後の「地獄が呼んでいる」も「イカゲーム」より最速で世界ランキング1位を記録したことで、それは確信になりつつあります。

なお、世界の視聴者が絶賛しているメッセージ性や、作品の没入度、俳優の演技などは、何もこれらの作品だけに限ったことではありません。

国内の厳しい視聴者の目にさらされているうちに、世界に通用するレベルの演技・脚本・演出力を兼ね備えた韓国ドラマが、さらに「こういう形が世界にウケるんだ」というポイントまで掴んだ今では、きっと、今後もさらに世界的にヒットする作品が次々に生まれるでしょう。

そういう意味で、「イカゲーム」以降の世界は、もはや「作品としてヒットするかどうか」だけではなく、「いかにIPビジネスとして収益を最大化できる作品か」という観点で、作品の企画を行うことが重要とされています。

昨今では、主に作品の制作全体を統括するプロデューサーとは別に、企画プロデューサーという形で、その作品のビジネス戦略まで含めた企画・プロデュースをする役割が重要視されてきています。

これだけ韓国コンテンツが世界的に成功したことを受けて、これまでは主にコンテンツ好きの人材が多かったコンテンツ業界に、ビジネス的成功を夢見る優秀な若者や、他業界の人材が多く参入してきているため、そういった人材がどんどん活躍していくでしょう。

2022年の韓国ドラマはどうなるか?

このように、2021年は、OTT戦争・元年と言える一年でした。

視聴者の立場では、やはり一足先にオリジナル作品の制作に着手したNetflixのオリジナル作品の快進撃が最も印象的だったことは間違いありません。

一方で、2022年は、TVINGの快進撃が期待できる年になると思います。

TVINGのトップ画面。ドラマ・バラエティが豊富。映画も見られる。

一つは、先ほど紹介したように、いよいよTVINGという配信プラットフォーム自体が、日本を始めとする海外に進出すること。

そして、もう一つは、今年以上のTVINGオリジナル作品の配信が予定されていることです。

特に、TVINGの日本進出に関しては、日本国内の韓国コンテンツの見方を大きく変える可能性があります。

現在、韓国国内では、TVINGの利用料金は月12000ウォン(約1200円)で、TVN・JTBC・OCNの全ドラマに加え、バラエティや音楽番組も視聴できます。

なお、ここには日本でNetflixで配信されている新作ドラマ全てが含まれるため、もし日本でも同じだけ配信されるとすると、今の私のように「基本はTVINGで視聴。Netflixはオジリナル作品を観るときだけ使えばいいや」となり、現在の「韓国ドラマ=Netflixで視聴」という時代は、一瞬で終わる可能性もあるのです。

また、OTTの3倍以上の高い月額料金を払って、韓国の配信から数ヶ月後に、しかも番組編成形式で見たい時にいつでも見れない日本の有料CS局のいくつかは、コンテンツの確保と加入者の拡大が困難になり、統廃合などが起こってもおかしくありません。

ただ、TVINGとしても、Netflixや日本の配信企業は、これまでのパートナーでもあるため、おそらく、最初は日本のTVINGで見られる作品は限定されるのではと思います。

私の予想としては、日本でいきなり「TVINGで韓国と同じだけのコンテンツが見られる」という状態まではいかなくても、「TVINGでしか見られない魅力的なオリジナルコンテンツの配信数を増やす」という戦略で、結果的に、日本の視聴者が「TVINGと既存の配信サービスを併用する」という状態をまず作るのではないかと思います。

もちろん、その際に、視聴者はTVINGに新たに加入する代わりに、これまで利用していた日本のCSまたは配信サービスの何かを解約する、という選択もするでしょう。

そして、TVIINGは、その手応えを見極めながら、徐々にそのコンテンツ数を増やしていくのではと思われます。

2021年に私もドハマリしたTVINGオリジナル作品「ユミの細胞たち」。

シーズン2の展開まで決定しているこの作品は、Netflixにも配信させず、おそらく日本のCSにも販売せず、TVING日本進出の際の目玉作品の一つになると思われます。

実際に、日本進出した際には、私も「この作品観るためだけでもTVING加入して!!」と強く周りにおすすめしたいほど素晴らしい作品だったし、すでに「日本でも見たい!」という韓国ドラマファンも多く存在します。

また、オジリナルとしながらもテレビ放送もあった「ユミの細胞たち」と違って、完全にTVINGだけで独占配信した「酒飲み都会の女たち」は、韓国国内でTVING新規加入者が4倍以上に伸びるほど人気を博した作品。

このような目玉コンテンツが生まれた2021年に続いて、2022年はさらなるオリジナルコンテンツの公開が予定されています。

2022年公開予定のTVINGオリジナルドラマ(現時点で発表されているもののみ)

「内科 パク院長」イ・ソジン、ラ・ミラン
「豚の王」キム・ドンウク、キム・ソンギュ
「怪異」ク・ギョファン、シン・ヒョンビン

(「チャサンオボ」イ・ジュンイク監督)

「ヨンダー」シン・ハギュン、ハン・ジミン
「ユミの細胞たち シーズン2」キム・ゴウン

このうち、どこまでが本当にTVINGでの独占配信になるのかはわかりませんが、ラインナップを観る限り、特にコアな韓国ドラマファンを唸らせてくれそうな実力派の濃いキャストばかり。(映画監督の中でも、イ・ジュンイク監督を選ぶあたりが良い!!!)

今年のNetflixオリジナルを超えるような、名作が生まれそうな予感がします。

そして、これらが日本でもTVING加入の動機になるようなキラーコンテンツになるかもしれません。

なお、ちなみに2022年は、ドラマ以外の韓国コンテンツが、各プラットフォームで増えることも予想されます。

Netflixが今年も数作バラエティやドキュメンタリーをオリジナルで制作しましたが、TVINGへの対抗策という意味でも、来年はもう少し数を増やすのではないかと思います。

また、すでにTVINGを始め、国産のOTTサービスでは、オリジナルのバラエティやドキュメンタリーの制作も増えています。今は国内向けですが、これもTVINGを皮切りに、世界にも配信されていくはずです。

ドラマや映画の俳優たちも出演することが多い韓国のバラエティ番組。ドラマや映画を通じて、世界の視聴者に認知された俳優たちが出演するバラエティなどが、世界の視聴者のドラマ→バラエティへの関心拡大の橋渡しをしてくれるでしょう。

今年の目まぐるしい韓国ドラマの躍進は、韓国コンテンツ業界の壮大なIP戦略のまだまだ序章に過ぎません。

オタクとしては、2022年も追っかけるのが更に大変そうですが、今まで以上に素晴らしいコンテンツに出会えることを期待して、引き続きウォッチしていきたいと思います!!

最後に

2022年は、日本の韓国ドラマの視聴環境が大きく変わると思います。

ある時、私は、韓国ドラマ好きの日本の友人たちが、毎月韓国ドラマを観るために支払っている料金を聞いて、びっくりしました。

私が韓国で4つのOTTに加入している料金よりも、某CS局の一契約のほうが高い…。しかもその料金を払っていて、いつでも観たい時に見れないという不便さに驚きました。

また、変に改悪されてしまう邦題やポスター。オンライン動画配信サービスでの作品を切り刻んで、話数単位で課金する手法など。

日本で韓国ドラマが下火になった後も、韓国ドラマを放送・配信し続けてくれたことには感謝ですが、韓国ドラマを愛する一人としては、日本の配信サービスに疑問を感じるところも少なくありません。

TVINGの日本進出に加えて、おそらく地上波連合のWavveも近いうちに日本進出するはず。

日本の配信サービスも、世界標準の料金、利便性と比較されるのは避けられません。

IPを保有する韓国のプラットフォームが直接日本に進出することで、韓国コンテンツのありのままの素晴らしさを、日本の韓国ドラマファンもリアルタイムで楽しめる環境が更に拡大することを期待します。

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