「このエリアのクレイジーX」とは?
韓国でkakaoの動画プラットフォーム「kakaoTV」のオリジナルコンテンツとして2021年5月24日から配信されたドラマ「このエリアのクレイジーX」。(韓国でもテレビ放送はなし)日本でもNetflixで同時配信されました。
主演は、「応答せよ1994」のスレギオッパ役で大ブレイクしたチョンウと、「私はチャン・ボリ!」などで知られるオ・ヨンソ。
(「青春時代」「検事内戦」)
脚本:アギョン
このドラマ、なんと言っても1話 約30分 ✕ 13話という新しい形式の短編ドラマ。
正直、kakaoTVが戦略的に1話30分のドラマを作り始めた時は、「30分単位じゃ、ハマれないでしょ〜」と思っていましたが…
いや〜、この作品めちゃくちゃ良かった!!!!
1話、30分であることが全然気にならない密度・テンポでしっかりハマれました!
主役の二人の高い演技力と、脇役まで演技の穴ナシの安定感
隅々のキャラクターまで魅力的
随所にメッセージも散りばめられている
良い作品の条件である、脚本・演技・演出の完成度が高ければ、尺は関係ないんだな〜ということを証明してくれた感じ。
決して、長編ドラマの劣化版ではなく、短編ならではの魅力がありました。
たまに聞く「韓国ドラマが面白いのは、日本のドラマより尺と話数が長いから」という説明は、正しくないことがこの作品を見るとわかります。
テレビ放送するドラマで最も多い形が1話 約90分✕16話ですが、この作品は90分換算すると、4話+αぐらいにしかなりません。
4話まで見ても「う〜ん、話が見えない。。」というドラマも多いことを考えると、このドラマの脚本家の構成力は素晴らしい!!
短尺であることを前提に相当構成を練らないと、こんな満足度が高い形には仕上がらないと思います。(脚本家は新人?のようなのですが…凄い!)
そして、この短い尺の中で、視聴者をハマらせるストーリー展開だけでも難しいのに、韓国ドラマらしいメッセージ性までしっかり入れ込んでくるとは。
はあ〜、もう韓国ドラマってどこまで進化し続けるんでしょう!だからやめられない、止まらない(笑)
「このエリアのクレイジーX」の魅力①実はヒーリングドラマ
「このエリアのクレイジーX」の魅力は色々あるのですが、まず最初にお伝えしておきたいのが、この作品、こうみえてヒーリングドラマであるということ。
ポスターや予告のイメージからは、クレイジーな人たちのコメディ劇のように見えるのですが…そんなことはありません(笑)
確かに、最初は少々やかましい感じなのですが(笑)全体を通じて、世の中的には「クレイジー」と言われる人たちの心の痛み、そんな人達を苦しめてしまう差別や偏見、そもそも”正常”と”異常”の境目って何?といった深いテーマが表現されています。
主人公たちを苦しめる事件や問題は、リアルに社会問題となっている内容ばかり。
また、ストーリーや登場人物たちの設定からは「世の中の多様性」に対する温かい視点が感じられます。
そして、それが短編という形に合わせて、激しすぎずシンプルに表現されていて、くどくなりすぎない感じ。これは、短編ドラマならではのメリットかもしれないと思いました。
「このエリアのクレイジーX」の魅力②隅々まで穴のない演技
「このエリアのクレイジーX」が短編にも関わらず、気がついたら登場人物たちハマってしまう理由が、隅々まで穴のない演技。
まず、主役の二人の演技力が素晴らしい!!
「世の中的にクレイジーな奴」というのは、下手すると観るのに疲れてしまうめんどくさいキャラクターになってしまう可能性がありますが、チョンウとオ・ヨンソの演技と脚本のキャラクターの作り込みが素晴らしいため、結果的にはとても魅力あるキャラクターに仕上がっています。
チョンウが演じるフィオは、自分の怒りをコントロールできない人物であるにも関わらず、全然ウザくなく、男らしいんだけど可愛らしくもあるというチョンウ本人が持っている魅力も活かされたキャラクター。
「応答せよ1994」でもそうでしたが、チョンウの素晴らしい感情演技には今回もすっかりやられてしまいます(笑)
そして、私もオ・ヨンソは初めてだったのですが、可愛らしくて雰囲気があるだけでなく、演技も上手〜〜〜〜!!すっかりファンになりました。
さらに、脇役の俳優まで実力派揃いで、演技の穴がなかったのもハマりやすかった理由。
近所のアジュマ役で個性的な演技を見せるペク・ジウォンさんも出演(「ラケット少年団」にも出演中)
それから、楽童ミュージシャン(AKMU)のイ・スヒョンが俳優として出演しています。(普通に新人俳優かと思ったぐらい、演技に違和感ありませんでした!)
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また、脚本でしっかりと各キャラクターの設定がなされていて、時間が短くてもキャラクターを理解し感情移入することができました。
私は、最近のヒット作は、以下の条件が全て成り立っている必要があると思っていますが、
小さい役までキャラクター設定が緻密で、視聴者がそれぞれお気に入りのキャラクターに感情移入できる(キャラクターが生きているか?)
脚本・演出・演技の全体のバランスと完成度が高い
今までの作品とは違う”新しさ”がある
「このエリアのクレイジーX」は、これまでにない新しいフォーマットでありながらも、しっかりと上記の条件を抑えた完成度の高い作品だったと思います。
アベンジャーズ的アジュンマ軍団が登場するのも、ヒット作に必要な要素をしっかり抑えているなと思いました
短編ドラマの可能性
12話程度のドラマの増加
1話あたりの尺が短い作品の増加
ということで、「韓国ドラマは週2回放送 1話90分✕16話〜20話」という当たり前は崩れつつあります。
この流れには、制作側の労働環境改善の動きの影響もありますが、一番大きいのは、視聴者のニーズの変化への対応だと思います。
スマホでYouTubeなどの動画コンテンツを見る人が増える中、「尺が長すぎるコンテンツは見ない」「手軽に観られるコンテンツを好む」という視聴者のニーズの変化を捉えた動きと言えるでしょう。
16話のボリュームのドラマが当たり前だった頃は、「話数が少ないと物足りないのでは?」と思っていましたが…
実際に視聴してみると「このテーマだったら12話ぐらいでまとめるのが最適」「これは、20話まであったから満足できた!」という感じで、作品の特性ごとに、最適な長さというのは異なることがわかってきました。
12話完結で週1という新しいスタイルを生み出した「賢い医師生活」のシン・ウォンホPDも、制作発表会で、
と話していましたが、今の流れを見ていると、まさにそのような形になっていきそうです。
韓国在住K-dramaライターMisa「賢い医師生活シーズン2」制作発表会の映像から、印象的だった内容を中心にご紹介します! 「賢い医師生活 シーズン2」制作発表会「賢い医師生活 シーズン2」の[…]
日本でも、「韓国ドラマは1話が長いから見るのが大変」「観始めると凄い時間をとられるから気軽に見られない」という声を聞くことがあります。
しかし、今回のような1話30分のドラマなら、お昼休みや移動の電車の中でも気軽に見ることができ、それでいて韓国ドラマの脚本の素晴らしさや、役者の演技力の高さを知るきっかけにもなると思います。
短編ドラマが増えていけば、これまで長尺に抵抗感のあった人たちが、韓国ドラマや俳優に興味を持つきっかけ・入り口になるだろうし、短編だから扱えるテーマなど、作品の多様性も広がるでしょう。
制作者・俳優のチャレンジ精神
なお、このように、ここ数年はプラットフォームの進化が目まぐるしいため、韓国ドラマにすごいスピードで変化が起こっていると感じます。
そして、私が何よりすごいなと思っているのは、こういった新しいチャレンジに、有名な制作者・俳優たちが積極的に参加していること!
シンプルに「良い作品なら出る」ということなんだろうなあ✨
そして良い作品なら、プラットフォームや形式に関わらずしっかり評価される。当たり前のようだけど、国内にこの環境があることが韓国コンテンツの強さ。「韓国ドラマって20話もあって長い」なんて、そのうちあっという間に過去の話になる。— Misa🌺韓国在住K-dramaライター (@misam34) July 21, 2021
まだ発展途上のプラットフォームのオリジナル作品や、これまでのドラマの常識を覆すような作品に、有名な制作者・俳優が出演するというのは、日本だとなかなか難しいんじゃないかな〜と思ってしまいます。
制作陣や俳優のインタビューを見ていると、すでに一定の地位を築いた人であっても、常に「今までにない新しいものを作りたい」というチャレンジ精神があふれているのには毎回感銘を受けます。
また、そこには「本当に良いものであれば、視聴者はしっかり評価してくれるだろう」という視聴者に対する信頼も感じられます。
「とりあえず、まずやってみる」「フィードバックを受けて、またブラッシュアップする」というチャレンジ精神と変化に対する強さは、エンターテイメントのみならず、随所で感じられる韓国の長所の一つ。そして、これが時代とともにどんどん進化を続ける韓国エンターテイメントの強さの源だと思います。
今年は特に、kakaoTVやTVING、Wavveなど、国内OTTのオリジナルコンテツが一気に花開いてくる予定なので、引き続き韓国ドラマの新しいチャレンジも注目していきたいと思います。
韓国国内OTTについてはこちらの記事で紹介
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最後に
ということで、「このエリアのクレイジーX」の魅力と短編ドラマの可能性について整理してみました!
個人的にはこの作品、今のところ、2021年の新作の中でTOP3に入る満足度!(チョンウが大好きなのでそれもありますが 笑)
そして、この作品のおかげで、短編=ハマりにくいというイメージが覆され、今後増えていくであろう短編ドラマに対する期待も高まりました。
トータルで7時間弱ぐらいなので、週末に一挙見もできるし、毎日お昼時間や寝る前に30分だけ少しずつ観ることもできます。
特に「応答せよ1994」のスレギオッパファンの方は必見!(逆にこの作品でチョンウにハマった方は「応答せよ1994」へ〜!)
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*画像はkakaoTVからお借りしました