韓国ドラマ:強さの理由③視聴者を唸らせる脚本はこうしてできる

ソウル在住
ブロガーMisa
韓国ドラマ視聴歴16年、現在韓国在住の私が「韓国ドラマの強さの理由」について、現地でしか得られない情報を元に、シリーズ形式で解説します。今回は、その第三回目「視聴者を唸らせる脚本はこうしてできる」です。
韓国ドラマを初めて見た方が驚くのが、作りこまれた脚本の素晴らしさ。私たちを「沼落ち」「ロス」にさせてしまう素晴らしい脚本が、どうして出来上がるのか?を解説していきます。
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韓国ドラマの中心は脚本

韓国ドラマの起点は脚本です。脚本家は制作会社に所属していることが多いので、制作会社を通じてシナリオの前段階の企画が放送局のプロデューサー(PD)などに持ち込まれます。
脚本家とPDが過去作品などで親しい場合は、企画段階から両者が一緒になって企画を練るケースもあります。(「賢い医師生活」のシンPDとイ・ウジョン作家など)
どちらにしても、脚本が起点。そして、その後もすべて脚本が中心となり、キャスティングが決まり、劇中の音楽や衣装も、ストーリーやキャラクターに合わせて作りこまれていくのです。

*『이태원 클라쓰(梨泰院クラス)』(JTBC/HPより)

ここで、PDがドラマの企画を選択する際、何を重視するか?についての興味深い調査結果があります。

2014年にある地上波の放送局のPDが、ドラマの企画を選ぶ際に重視する点について、地上波のドラマPD83人を対象に調査を行いました。その結果が以下です。

驚くのは、日本のドラマで重要視されている「主演俳優の競争力」「作家の信頼性」よりも、「ストーリーの魅力」「シナリオの完成度」「素材の斬新さ」つまりは「脚本が面白いかどうか?」が重要視されている点です。

この調査結果は、2020年の今見ても納得感があります。なぜなら、視聴者側もこの優先度で作品を評価していると感じるからです。

これまでに見てきた数々のドラマを振り返ってみても、以下のことが言えると思います。

無名の俳優・作家でも、面白いシナリオであれば十分にヒットする
俳優や作家がいくら有名でも、ストーリーが魅力的でなければヒットしない
最近のヒット作は、「ストーリーの魅力・シナリオの完成度・斬新さ」すべてが必要である
もちろん、作品を最初に選ぶ時は、ある程度は俳優や作家の知名度が作用します。しかし、16話という長いストーリーを最後まで見続けるためには、知名度だけでは、視聴者を満足させられません。
特に韓国では、プラットフォームの進化により、面白ければいくらでも途中から見はじめられる環境が整っているため、口コミを巻き起こすような脚本力に重きが置かれていると言えます。
PDとして、優れたキャスティングと演出で、視聴者や俳優から絶大な信頼を集めているシン・ウォンホPD(「応答せよシリーズ」「賢い医師生活」など)も、インタビューで作品や自身を賞賛されるといつも「素晴らしいのは脚本である。私は脚本通りに撮っているにすぎない」と答えているのにも、脚本を最も重要に考える姿勢が表れています。

*『이태원 클라쓰(梨泰院クラス)』(JTBC/HPより)
一方で、日本のドラマ制作はどうなのでしょうか。調べてみると、日本のドラマ制作ではどうやら、脚本が起点でも中心でもないという声が聞こえてきます。

日本のドラマは、PDが漫画など原作になる作品を持ってきて「これをドラマ化したい」というところから始まり、主演が決まる。それから脚本の締め切りも決まる

*引用元:「『日本のドラマづくりを変えていきたい』脚本家・古沢良太が注目する海外のドラマ制作」より

近年は、テレビ局側が監督、脚本家の作品性を薄くしようという傾向がある。
作品を監督や脚本家のものにしたくない、テレビ局のものにしたいから、わざと各話で違った監督、脚本家を使う。

*引用元:「日本のドラマがこの10年で急速につまらなくなった、本当の理由」より

テレビ局や芸能プロダクションの力のほうが大きいため、脚本家はその意向に合わせて書く、というのが現在の日本のドラマの状況のようです。ここが、日韓のドラマの一番大きな違いであると言えるでしょう。

完成度の高い脚本を作り上げるチーム体制

では、韓国ドラマにおいて重視される「魅力あるストーリー」「完成度の高いシナリオ」を生み出す秘訣はどこにあるのでしょうか?

そこには、特にここ数年で浸透してきた、「チームによる脚本作り」が挙げられます。

PDや企画担当者たちは、可能性がある脚本と脚本家を発見すると、内容に合わせて専門家や補助作家などを加えたチームを構成し、調査や企画面で最大限のサポートを行うといいます。

というのも、最近のヒット作では、斬新な素材を緻密な調査を元にして、リアリティたっぷりに練り上げる過程が欠かせません。

「愛の不時着」でも、北朝鮮描写においては、北朝鮮出身者を補助作家に置きながら、脱北者への緻密なインタビューを重ねたという話は有名です。


*『사랑의 불시착(愛の不時着)』(tvN/HPより)

「賢い医師生活」では、主人公5人の医者の担当の科ごとに、実際の医師5人が専門家チームとして脚本作りに参加。医師たちの実話をベースに、実に4年もの歳月をかけて台本が練り上げられました。


*『슬기로운 의사생활(賢い医師生活)』(tvN/HPより)

韓国視聴者からは常に斬新さが求められる中で、最近のドラマは特に、ある領域の専門的な内容が含まれていることが多くなりました。そのため、その部分を補足する専門家や調査チームの存在が脚本作りには欠かせなくなっています。

しかしあくまで、それらは脚本の材料にしかすぎません。メインとなるストーリー展開やキャラクター設定、セリフなどはもちろん、作家が作り上げていくわけですが、ここについても、チーム制が大きく寄与しています。

作家のインタビューを見ていると「企画担当者と一緒に何度も何度も会議を重ねて練り上げた」といった話や、「現場の監督や俳優たちと意見を交わしながら作りこんだ」といったエピソードが出てきます。

韓国の過去のドラマ作品はもちろん、海外の作品までよく研究し、意見を出し合いながら、いかに斬新で視聴者の共感を呼ぶストーリーにするか?を追及しているのです。

最近のヒット作では、このようなチーム体制が功を奏し、一人の作家だけでは書きあげきれないような、細部の細部までリアリティと共感ポイントが散りばめられています。


*『사랑의 불시착(愛の不時着)』(tvN/HPより)

主役以外のキャラクターまでもが、非常に魅力的でありながら、どこか身近に居そうな親近感があり、メインのストーリーに関係のない部分までリアリティを追求する。これらは、最近のヒット作に欠かせない要素です。

韓国視聴者が重視する「斬新さ」

一方で、作品の完成度と同じくらい、韓国視聴者が重視するのが「作品の斬新さ」です。
実は、この点が、韓国の視聴者と海外の視聴者との間で、ドラマの評価が異なる大きな原因の一つだと思います。

ドラマ以外にも、映画や演劇などが常に身近にあり、作品を観てきた数が多い韓国の視聴者は、常に「今までの作品と何が違うのか?」を求めます。

「サイコだけど大丈夫」は、愛や家族の在り方の描き方が斬新だったと評価を受けた。(ただし、完成度の点で大ヒットには至らず)

なお、「斬新であるか?」ということは、常に過去に観てきた作品との比較で判断されます。

そのため、韓国ドラマを観てきた数が少ない海外の視聴者が「面白い」「斬新だ」と思うことも、韓国視聴者にとっては「すでにどこかで見たことがある」「もっと面白い作品を知っている」ということも少なくありません。韓国と海外で作品の評価が分かれるのはこのためです。

日本で大ヒットした「愛の不時着」についても、日本と韓国では評価のポイントが異なります。

韓国では、ラブストーリー部分については「パク・ジウン作家の過去作品と重なる」という評価が多く、それよりもどちらかというと「北朝鮮に暮らす普通の人たちを描いたのが斬新だった」という点で評価されている作品と言えます。これは過去に観てきた作品の蓄積の違いからくる、着眼点の違いと言えるでしょう。

斬新さを生み出す新人作家の活躍

作品が流通するプラットフォームが増え、内容も多様化するにつれて、他の作品との差別化ポイントである「斬新さ」は、さらに重要な要素となってきました。現在、この「斬新さ」を生み出しているのが新人作家の活躍です。

スター作家の時代は終わった

韓国でも数年前までは、特定の作家の作品が継続してヒットを飛ばしていた時代があります。

その代表とも言えたのが、キム・ウンスク作家。

「パリの恋人」「相続者たち」など、地上波の時代から長きにわたり韓国ドラマ界を牽引ししたスター作家です。その勢いは、ケーブルドラマ時代でにもとまらず、「太陽の末裔」「トッケビ」では、韓国のゴールデングローブ賞と言われる百想芸術大賞で2年連続で大賞を受賞します。

しかし、「トッケビ」が大賞を受賞した翌年の2018年の百想芸術大賞では、大きな変化が起きます。
新人作家のデビュー作が、いきなり大賞と作品賞を受賞したのです。

それが、日本でも人気の高い「秘密の森」です。

脚本を手掛けたイ・スヨン作家は、なんと、それまで普通の会社員だったというから驚きです。


*『비밀의 숲(秘密の森)』(tvN/HPより)

登場人物全員が犯人に見えてくるような緻密な構成と、社会問題にまで切り込んだ骨太な脚本は、視聴者はもちろん、キム・ウンスク作家も「大変興味深く観た」と、賛辞を贈るほどでした。

そして、「秘密の森」以降、新人作家たちの活躍がさらに顕著になっていきます。

昨年韓国で大ヒットを記録し、2020年の百想芸術大賞で大賞と脚本賞を受賞した「椿の花咲く頃」。


*『동백꽃 필무렵(椿の花咲く頃)』(KBS/HPより)

この脚本を手掛けたイム・サンチュン作家も、実はこの作品は、連続ドラマ2作目。イ・スヨン作家と同じく、会社員の出身です。ちょうど「秘密の森」と同じ2017年に、連続ドラマ1作目の「サム、マイウェイ」でヒットを飛ばしました。

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2020年の百想芸術大賞で作品賞を受賞した「ストーブリーグ」、作品賞にノミネートされた「ハイエナ」なども新人作家の作品でありながら、高い評価を得ました。

一方で、過去のスター作家の作品が、まさかの低視聴率・低評価というケースも出てきています。

「太陽の末裔」「トッケビ」のキム・ウンスク作家の最新作、「ザ・キング~永遠の君主~」が低評価だったことは、その象徴として語られました。

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もちろん、「愛の不時着」のパク・ジウン作家のように、一定の評価を得て活躍しつづけている作家もいますが、「過去にヒット作を出した作家だからヒットする」とは言えなくなってきたのです。

新人でもヒットを生み出せる仕組み

なぜ、このように経験の浅い新人作家が、ヒット作を生み出せるのでしょう?

ここにも、先ほど説明したチームでの脚本作りがうまく機能していると言います。

特に、経験の浅い新人作家の場合、このチーム制により、PDや企画担当者、専門家や補助作家の手を借りて、自身のアイディアを練り上げていくことができます。多少、完成度が低くても良い作品の原石を見つければ、いくらでもチームで補完ができるわけです。

しかし、新人作家の場合も、もちろんポッと出たアイディアが採用されるわけではありません。

「秘密の森」のイ・スヨン作家も、会社を辞めて一人で図書館に通いながら、3年かけて調査と執筆を行ったと言われています。8話まで書き上げた時点で、放送関係者の目に留まり、ドラマ化が決まったんだそう。

「秘密の森」は視聴者の熱いリクエストで、現在シーズン2も放送中。早くもシーズン3を望む声も多い。


*『비밀의 숲2(秘密の森2)』(tvN/HPより)

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あくまで、努力に裏付けられた実力がありながらも、まだ知られていない才能の原石を探すことが大切なのです。

スタジオドラゴン企画チーム長のソン・ジンソン氏は、2017.8.18 韓経ドットコムの記事でこう話しています。

「可能性のある作家と台本に出会えば、それを元に企画PDらがチームを組んで作家の執筆に必要な資料調査と企画などを最大限支援する。
本当に面白いか、視聴者が見たい作品であるかどうかだけが明らかであれば、いくらでもドラマにすることができる」

また、いきなり人気のあるテレビ局の連続ドラマからスタートしなくても、まずは小さく視聴者の反応を試せる編成枠や、ウェブドラマ、OTTのオリジナルドラマなど、新人が実力を試したり、経験を積める場所がたくさんあることも、全体の底上げにつながっていると言います。

新人作家が注目される背景

韓国でも以前は、スター作家の作品が重宝され、新人作家にはなかなか執筆の機会が与えられなかったと言います。しかし、ここ数年、新人作家にも機会が与えられるようになったのには、このような背景があったと考えられます。

まず、一つには、原稿料の高騰です。脚本の重要性が強調されるにつれ、過去にヒット作のある脚本家の原稿料は、どんどん上昇して行きました。キム・ウンスク作家が「トッケビ」を執筆した際には、1話あたり8000万ウォンもの原稿料だったと言われています。

一方で、2016年には、韓国ドラマの重要な買い手であった中国で「禁韓令」という韓国コンテンツの輸入を禁止する処置がとられたことも、制作費そのものの確保にあたり、大きな打撃を与えたと言えるでしょう。

「限られた制作費の中で、良い脚本をどうやって確保するか?」

この時代のそんな背景も、PDたちを「面白いシナリオであれば、知名度や実績は関係ないはずだ」という本質に立ち戻らせ、「これまでの常識を打ち破って、新人作家を起用する」という挑戦をする後押しになったのではと思います。

この時、先陣を切ったのも、やはりCJ E&M(現 CJ ENM)です。

「秘密の森」が放送された2017年には、O'PEN というドラマ・映画の新人作家を発掘、育成してデビューまでをサポートする事業も開始。2020年までに130億円を投資する、と発表しました。

こうして、新人作家を発掘・育成する仕組みと共に、「秘密の森」のように実際に新人作家を起用する実績を積み重ねながら、チームで作家をサポートする仕組みも確立していったのです。

こうした先駆者がもたらした変化は、すでに業界の常識を塗り替えつつあります。

地上波のSBSが設立した制作スタジオ「スタジオS」の局長は、このように話しています。(2020.5.20/데일리안)

「新人作家の力は新しさである。世の中を眺める視点が違う」

「新人作家を起用することは、放送局の立場では挑戦であったが、すでに検証段階は終わった。今は、”新人作家の作品を活用しなければならない”というところで意見が一致している」

2018年以降は、Netflixの台頭により視聴者の目線が一層高まり、多様なコンテンツが求められるようになりました。

そんな中で、この2017年から取り組まれていた新人作家を育成・起用する流れは、韓国ドラマの多様性と進化を生み出す重要な要素の一つとなってきています。

新しい才能を発掘する仕組み

このような新人作家は、具体的にどのように発掘されるのでしょうか?

まず、新人作家を発掘するメインのルートとして、各放送局が行う公募があります。特に地上波のSBSは、最近この公募での優秀作品を起用するケースが目立ちます。現在放送中で好評を得ている「アリス」「ブラームスが好きですか?」もSBSの公募の当選作品です。

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また、昨年大ヒットし、百想芸術大賞で作品賞を受賞した「ストーブリーグ」は、2016年のMBCドラマ脚本展で優秀賞を受賞した作品をSBSが2019年に放送したというケースです。

「スポーツドラマは成功しない」という定説を破って、大ヒットに。


*『스토브리그(ストーブリーグ)』(SBS/HPより)

最近では、新しい動画配信プラットフォーム、カカオTVを手掛けるカカオMも、自らドラマ公募を行うことを発表しています。

さらに、ウェブトゥーンと言われるWEB漫画原作の作品が増えてきているのも大きな動きです。
「梨泰院クラス」「私のIDはカンナム美人」など、ドラマではあまりなかった切り口の作品がドラマ化されるケースが多くなってきました。

また、インターネット上には、個人がシナリオや小説を無料で発表できるプラットフォームも数多く存在します。
新人発掘の争いがし烈になってきた昨今では、PDや企画担当者たちは、ドラマのシナリオという形になる前の段階のものから着目していると言います。

このように、あらゆる角度から、斬新な作品を生みだす才能の原石を発掘する取り組みが行われているのです。

異色の経歴を持つ脚本家たち

先ほど「秘密の森」のイ・スヨン作家、「椿の花咲く頃」のイム・サンチュン作家が会社員出身であることを紹介しましたが、韓国ではこのように社会人経験をしてから、脚本家を目指す人も少なくありません。

これは、大学の文芸創作科や演劇映像科といった学科でシナリオ作りについて学べる以外にも、放送局が運営するアカデミー(塾)や、作家や監督、俳優などの育成コースを持つ専門学校など、社会人でも脚本家になるための教育機関が多く存在することも理由の一つでしょう。

NAVERで「ドラマ作家」と検索すると、教育機関の広告がたくさん表示される。「ドラマ作家になるには」といった情報も豊富。

最近では、専門的な内容を扱った作品が多いのもあり、異色の経歴を持つ脚本家たちが多く登場しています。

2019年に教師をメインとした学校ドラマ「ブラックドッグ」を手掛けたパク・ジュヨン作家は、自らの教職経験を活かし、リアリティのある脚本を作り上げ、好評を得ました。(ちなみに、このパク・ジュヨン作家は、先ほどの紹介したO'PENの一期生です。)

「学校版、ミセン」と言われ、教師や生徒を取り巻く様々な問題がリアルに描かれた


*『블랙독(ブラックドック)』(tvN/HPより)

「愛の不時着」を手掛けたパク・ジウン作家の場合は、大学で映画芸術を専攻した後、初めのうちはバラエティ番組やラジオの構成作家としてキャリアを積んでいます。ドラマを書き始めたのは、2007年が初めてでした。

実は、パク・ジウン作家のように、ドラマの作り手には、芸能プログラム出身という人も少なくありません。
「応答せよシリーズ」「賢い医師生活」を手掛けたイ・ウジョン作家ももともとはバラエティ番組の作家として活躍していました。(そしていつもタッグを組む、シン・ウォンホPDも芸能出身です)

このように、様々な人々の生き方をリアルに描き出すことが求められる最近のドラマ制作では、学生時代から脚本家を目指した人だけではなく、多様なキャリアを積んだ脚本家たちの活躍も顕著になってきています。

まとめ

「韓国ドラマ:強さの理由③視聴者を唸らせる脚本はこうしてできる」ということで、韓国ドラマでの脚本の重要性や、完成度が高く、斬新なシナリオが生まれる仕組みについて解説してみました。

このように韓国ドラマでは、脚本が最も重要視され、良い脚本が生まれるための様々な仕組みが構築されていることがわかります。

しかし、考えてみればその論理はとてもシンプルです。視聴者が求めるものと、作り手が目指すものがしっかり一致しているということ。

今回、日本の場合がどうなのかについても少し調べてみましたが、日本の制作現場では、視聴者が想像もしないような基準やロジックで、意思決定がなされているようで、驚きました。

日本も昔は、面白いドラマが作られ、国内だけでなく海外の視聴者にも人気だった時代があったはずです。
その頃と今では制作現場の状況が変わってしまったということなのかもしれません。

私はこれまで、作品を選ぶ時に「脚本家が誰か?」というのは、とても重要なポイントと考えてきました。

しかし、考えてみると最近は、確かに名前を聞いたことの無い脚本家の割合が一気に増えたような気がします。そして、そのような新人脚本家が思いがけずヒットを記録する確率と、逆にベテラン作家が意外と失敗する確率が同じくらいだなと感じます。

そういう意味で、これからはやはり「作家」というよりは、企画意図などから「作品性」を見極めるのが正しいのかもしれません。

次回は、俳優について掘り下げてみようと考えています。ご興味ありましたら、またご覧ください。

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