2021年百想芸術大賞:特別ステージ「両手、君に」演出意図とメッセージ

韓国ソウル在住
ブロガーMisa
2021年百想芸術大賞の特別ステージ「両手、君に」の演出意図とメッセージについて解説します。

毎年話題の特別ステージ

2021年5月13日(木)に開催された百想芸術大賞。

授賞式では毎年、第一部と第二部の表彰の間に、授賞式を盛り上げる「特別ステージ」の時間があり、その年の状況に合わせたメッセージ性と芸術性が高い内容で、授賞式とともに注目されています。

特に、コロナが拡大4ヶ月目に行われた2020年の百想の特別ステージでは、「あたりまえのことたち」と題して、子役たちが歌を歌い、大きな感動と話題を呼びました。(私も見ながら泣きました。。)

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そして、今年はイ・ドヒョンとチェ・ベクホによるステージでした。

今年はTikTokを通じて日本からも授賞式中継を無料で視聴することができたため、Twitter上でも、フォロワーさんはじめ多くのドラマファンの方が授賞式を視聴していたよう。

ただし、日本語字幕がない中、今回の舞台…たぶん「なんでこの彼が歌ってるの…?(上手じゃないのに。。)」とか「おじいさん、誰?」という感じで、イマイチピンとこなかった方が多かったのではないでしょうか?

昨年が、子役たちの歌声と感動的なメロディ、そして役者たちが涙する様子で、言葉がわからなくても伝わってきたのに対し、今年はそもそも、なぜこの二人が歌っているのか?」というキャスティングの背景や、舞台のコンセプト、歌われている歌詞の内容がわからなければ、理解が難しかったんじゃないかなと思います。

確かに、色々理解した上で見ても、昨年の感動とまではいかないのですが、このままだと大変なプレッシャーの中、大役を務めたイ・ドヒョンがあまりにも不憫なので(笑)今回のステージについての補足説明をしたいと思います。

イ・ドヒョン、ほんと良く頑張ったよ…!(泣)

今回のコンセプト

コロナになって「あたりまえのことがどれだけ素晴らしいことだったのかに気付かされた」というメッセージを込めた「あたりまえのことたち」というコンセプトで特別ステージが行われた昨年。

それから、1年経ってもいまだにコロナが収まらない状況の中で、今年は「冬を乗り越える君たちへ」というコンセプトでステージが企画されました。

”あらゆる困難な時期を乗り越えてきた大人の世代が、今を生きる青春世代を励ます”という内容で、イ・ドヒョンが「青春の代表」、チェ・ベクホが「大人の代表」として、45歳差の共演となりました。

実は舞台のコンセプトやキャスティングに関してについては、韓国国内でもこれ以上詳しい解説がないのですが、ここからは私なりの解釈を共有してみたいと思います。

追記:後日映像が公式のYou Tubeアカウントで公開されていました。字幕はありませんが、雰囲気をご確認ください。

イ・ドヒョンが選ばれた理由

まず、この二人がキャスティングされた理由については、やはり今年の作品たちと深い関係があります。

「青春の代表」としてキャスティングされたイ・ドヒョンは、この日「18アゲイン」で新人賞も受賞しましたが、

それ以外にも「Sweet Home -俺と世界の絶望-」や「怪物」でシン・ハギュンの青年時代を演じるなど、最近は立て続けに作品に出演し、20代の俳優の中でも演技力を高く評価されている期待の俳優の一人です。

「怪物」のように、主人公の青年時代を演じたり、「青年」「青春」のイメージが強く、何より5月から始まったドラマ「5月の青春」で主役をつとめています。(私も今、ハマってるドラマ…!)

特に「5月の青春」は、1980年の光州を舞台にしたドラマで、映画「タクシー運転手」でも扱われた、あの光州事件の時代を生きた若者たちのストーリーをえがいています。

”あらゆる困難な時期を乗り越えてきた大人の世代が、今を生きる青春世代を励ます”というコンセプトにある、”あらゆる困難な時期”というのは、韓国の場合、個人の人生の困難だけをさすのではありません。

光州事件をはじめ、IMF危機など、近年の韓国社会が乗り越えてきた様々な出来事が浮かんできます。

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私も、韓国で生活しながら、日本ではなかなか知ることの出来なかった韓国の現代史のリアルな情報に触れたり、この「困難を乗り越えた大人世代」の人たちがどれだけタフで、苦労を乗り越えてきた世代なのかを肌で感じることがあるので、このコンセプトには「コロナの今」とはまた違う重みを感じます。

なので、特に「5月の青春」の主人公のイ・ドヒョンが、青春の代表として選ばれたのはとても納得がいきます。

また、昨年、必ずしも歌がうまいわけではない子役たちの歌声が、逆にリアルで大きな感動を呼んだため、今年も歌唱力というよりは「青春の代表」というコンセプトに合った俳優をキャスティングしたのでしょう。

チェ・ベクホが選ばれた理由

そして、「大人の代表」として舞台に立ったチェ・ベクホ。1976年にデビューした、韓国では有名なシンガーソングライターで、今年なんと71歳。

こちらもキャスティングには、今年の作品との深い関係があります。

今回の百想芸術大賞で、ドラマ関連の主役だった「怪物」で作品を象徴する印象的なOSTを歌っているからです…!

「怪物」という作品の奥深さ、不気味さを表すこの秀逸なOST「The Night」は、毎回流れるたびに鳥肌が立ったり、涙が出るほど、作品の重要な演出の一部でした。
そして、今回ステージで歌われた「두 손, 너에게(両手、君に)」という曲は、「スウェーデンランドリー」という女性デュオが、2015年にチェ・ベクホとコラボで発表した曲。
”夢と現実に疲れ果てた人たちに、慰めが必要な瞬間に伝える温かい慰労の曲”と画面でも説明がされていました。
こちらが原曲。チェ・ベクホの歌声も後半でてきます。
イ・ドヒョンが冒頭に朗読したセリフも全て、この歌の歌詞から来ています。(内容は後ほど解説)
女性が歌う前半部分が、夢と現実の間で揺れ動く若者の葛藤を表しており、それに対して、チェ・ベクホが後半で、大人として若者にメッセージをする内容になっています。
ちなみに、「ナビレラ」の9話で、ハラボジが孫娘が働くラジオ番組にリクエストした曲としても登場しました。
「두 손, 너에게(両手、君に)」の原曲を聞いて、私は、今回の舞台が歌い手にとってはやっぱり難易度が高かったんじゃないかなと改めて思いました。
というのも、原曲を歌っているチェ・ベクホでさえも、後半、演奏のテンポに合わせるのがすごく難しそうに見えたからです。
それもあり、実は先ほどの「怪物」のOSTが大好きな私ですが、この方があのOSTを歌っている方だとは最初聞いたとき、わかりませんでした。。
音が響きやすい広い会場で、イヤホンを頼りにあのスローテンポの曲を歌唱するのは、かなり難しく、ましてや歌手でもなくまだ新人のイ・ドヒョンにとっては、どれだけ負担の大きかったことでしょう。。。(もともと女性が歌ったパートを自分のキー似合わせるのも難しそう)
歌い終わってすぐ、おそらく、自分でも悔しさと申し訳無さが残ったイ・ドヒョンを、チェ・ベクホが「大丈夫だよ」と歌詞の世界観そのままに慰める様子も印象的でした。
また、チェ・ベクホは、「ナビレラ」のOSTも歌っています。(7話でハラボジが、公園で家族を思い出しながら涙する涙するシーンで流れていた曲です。)

冒頭:スジのナレーション

では、ステージのコンセプトやキャスティングの背景を理解した上で、内容についても解説していきます。

まず、昨年のパク・ボゴムに負けず劣らず、印象的だったスジのナレーション。韓国のネットでも絶賛する声がたくさん見られました。

聞いている私たちと対話するようなナレーションは、さすが女優だからできる、堂々としたものでした。

「あたりまえのことたち」を待っていた
心の冬が過ぎ去ろうとしています。
この寒さがこんなに長く、大変だとは、
誰も知ることが出来なかったでしょう?

この時間に耐えながら、私たちは、
何度も何度も倒れましたよね。
だからこそ、慰めを求めて、希望を求めて
いつもそばに居てくれる
大衆文化芸術にたどり着くのです。

華やかに咲き誇るだけでも足りない
私たちの若き日々
「あたりまえのことたち」を
忘れてしまった あなたへ
長い冬を耐え抜いている 輝くあなたへ

この話を聞かせてあげたいと思います。

イ・ドヒョンのセリフ

そして、「両手、君に」というステージのタイトルが表示され、イ・ドヒョンが登場。

白いシャツにジーパン、まさに青年の代表、という衣装です。

「両手、君に」の歌詞をベースに作られたセリフが語られます。

消えちゃうでしょ?
今、描いている未来も 大切だった約束も
僕から去っていってしまうでしょ?
大人になったら
愛してたものたちが 消えてしまう痛みに
鈍くなったりもしますか?

どうして 僕だけ辛いんだろう
どうして 僕だけ全部失わなければいけないの
僕はまだ そのままなのに
何をどうしたらいいの?

そして、今年のドラマ・映画から抜粋された名シーンが続きます。(百想でしか出来ない豪華な使い方…!毎回これが感動的

「スタートアップ:夢の扉」のダルミのおばあちゃんのセリフから

あなたはコスモスよ
まだ春じゃない
ゆっくり待っていたら
夏に一番キレイに咲くわ
だから 焦っちゃダメ

「青春の記録」のヘジュンのおじいちゃんのセリフから

お前は必ず、成功する!
おじいちゃんが 断言する
世界でお前ほど
できるやつを見たことがないよ
ここで映し出されたキム・ソノの眼差しも良かった…><

歌唱パート

さあ、ここからいよいよイ・ドヒョンがド緊張していた、歌唱パート。

ここはもう、感動の前に「頑張れ、頑張れ…!」とドキドキして見守っていました(笑)

消えるでしょうか 今描いている未来も
ずっと昔の毎日を 夢を見ていたように
忘れてしまうのでしょうか

小さい二つの指にかけておいた
大切だった約束のように

愛していたものたちが
どんどん なくなっていき
いつかは そんなことにも
鈍くなっていくのですか?

僕はまだ そのままなのに
僕に届く視線は 変わったみたいだけど
何をどうすれば 良いのですか?

先ほどのセリフと重なる部分です。

そしてここで、大人の代表、チェ・ベクホが登場し、この青年の叫びに応えます。

心配しなくていい
君の世界は とても強く
君を包み込んでいるよ

私は 知っているよ
そのままのようでも
ほんの少しずつ 君は進んでいる

真っ暗な宇宙の中で かがやく星を探して
まばたきをする君は とても美しいんだ

そして、「サイコだけど大丈夫」の一幕。精神病院の院長と患者さんが話すシーン。

私が若い頃 マラソンをしたんだけど
膝に炎症ができたんですよ
そしたら ちょっと休めなければ
いけなかったんだけど
結局また 走りだしてしまった
今はもう 歩くのもしんどいですよ

ちゃんと歩けもしないくせに
むやみに 走ろうとしたらダメですよ
僕みたいに

辛かったら休んで 悲しかったら泣いて
そうやって 座り込んでいても
良いんですよ

そしたら また
もう一度走り出せる日が
かならず来るんです

これには「サイコだけど大丈夫」に出演したパク・ギュヨンもうるうるしていました…。

こうして、名脇役・名お母さんたちのセリフが続き…

再び「スタートアップ:夢の扉」のキム・ヘスクさんのこの一言で、涙腺が…

つらかったら、連絡しなさい

ジピョンに言ったセリフですね…(涙)

さすがのチョン・ソジン…いや、キム・ソヨンさんも、これには涙を浮かべていました。

そして、おそらくイェ・スジョンさんの声で

春の日差しに 涙もキラキラと輝くという
あるシーンの 言葉のように
一歩一歩 光に向かって
進んでいこうと思う

ここで色んな作品での「ファイティン…!」という場面が映し出され(締めはやっぱり、ダルミ!!!)

そして、今度は二人で並んで歌います。まずは、再び大人が青年に語りかけます。

心配しなくていい
君の世界は とても強く
君を包み込んでいるよ

私は 知っているよ
そのままのようでも
ほんの少しずつ 君は進んでいる

そして、ここから二人で。
真っ暗な宇宙の中で かがやく星を探して
まばたきをする君は とても美しいんだ

幾多のためらいの後に
踏み出した足取りに
握ってくれた 両手を
覚えておきますね
ということで、映像でも「スタートアップ:夢の扉」から、大人世代と青年世代が手を握るシーンが映し出されてエンディング。
よく頑張ったよ、イ・ドヒョン!!!(2回目 笑)
このように、ステージが表現しようとしたメッセージを考えると、歌がうまい若い歌手が歌うより、イ・ドヒョンがド緊張しながら、それでも最後までしっかりやりきろうとする姿はまさに「青春の代表」のようでもあり、最後のこの二人の様子も含めて、結果的にメッセージの一部になったのではないかと思います。
イ・スンギも大きく拍手してくれていました…!
こうして、この1年のドラマや映画のシーンと合わせてみてみると「青春」を扱った作品も多く、今回の”大人の世代が、今を生きる青春世代を励ます”というのは、そういう意味でも今年の作品をよく表していたと思います。
また考えてみると、この”世代を超えたコラボ”というのもまた、最近のトレンドだとも言えます。
今回、71歳のチェ・ベクホと、26歳のイ・ドヒョンのコラボは、「ナビレラ」でのパク・インファンさんとソン・ガンの共演を思い出すし、
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そこまでの年の差ではありませんが、「怪物」もシン・ハギュンとヨ・ジングという世代を超えた二人が共演して好評を得ました。

そんな意図もあって、このステージのキャストと内容が決められたのではないかな〜と思いました。

ということで、内容を頭に入れて、是非イ・ドヒョンを応援する温かい気持ちで、もう一度ご覧ください(笑)

まとめ

ということで、2021年の百想芸術大賞の特別ステージ「両手、君に」の演出意図やメッセージについて解説しました!
少しでも理解の助けになり、「もう一度見てみよう」と思って頂けたら嬉しいです…!

毎年、視聴者の期待が上がりすぎて(笑)、制作陣もプレッシャーだろうな〜と思う特別ステージ。
来年は是非、コロナが明けて、この2年とはまた全然違った舞台になることを期待します…!

「怪物」が高く評価された2021年百想芸術大賞の本編の様子はこちらの記事で!

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*画像はJTBCからお借りしました