Netflix「イカゲーム」はなぜヒットした?海外と異なる韓国評価と世界的ヒットの理由

韓国在住K-dramaライターMisa
Netflixオリジナルドラマ「イカゲーム」の世界的ヒットの理由を、韓国での反応も紹介しながら分析します!
※内容には一部作品のネタバレになる部分も含まれますので、視聴済の方が対象の記事です。

日本国内で語られる「イカゲーム」ヒット論

私自身は、「イカゲーム」を9月17日の公開直後にすぐ視聴しました。これは「すごく流行る気がする…」と思い、まだ韓国でも話題になる間に、当時、梨泰院駅の地下鉄構内で開かれていた展示も観に行き、Twitterで共有。

このツイートへの日本の方の反応を観ていると、やはりいつもの「韓国ドラマ好き」とは異なる層にも「イカゲーム」が刺さっている様子がわかり、「これは韓国ドラマの新しい視聴者層を開拓してくれる作品になる」ことをこのときに確信しました。

日本国内でも、単純に「面白い」という口コミで広まっていた初期の時期から、今度は「どうやら世界で話題らしい」ということが大きく取り上げられ、ついには世界94か国でランキング1位を記録。1億1100万アカウントが視聴し、初月の視聴数としては過去最高を記録。

配信から約1ヶ月たった今では、「世界で1位・Netflix歴代1位」という記録が冠となり、引き続き新しい視聴者が増え続けている状況だと言えます。

そのせいか、配信からわずか1ヶ月程度にも関わらず、急に日本のメディアでも「イカゲーム」を取り上げた記事が増えたような気がします。

それらを見てみると、「厳しい韓国社会をリアルに描いている」「ストーリーのテンポがよい」「Netflixが高額の制作費を投資している」「深いメッセージ性がある」など様々な分析がなされています。

しかし、これまで16年間、韓国ドラマを見てきた私の視点からすると、どれも「『イカゲーム』だけの特徴」とは言えず、ヒットの本質的な理由とは思えません。

「世界的ヒット」とは何か?

そもそも「世界的ヒットの理由」を語るにあたっては、「世界的ヒットとはどういうことか?」を考える必要があります。

「世界的ヒット」とは、「国を超えて多くの人が作品を観た」ということ。具体的な視聴者データは公開されていませんが、1億1100万アカウントという数を見る限り、特定の性別や年齢の人だけではなく幅広い層が視聴したということが予想されます。

それはつまり、これまで世界的に見ても、圧倒的に女性が多かった韓国ドラマの視聴者層と比べ、男性にも受け入れられたこと。

そして「Netflixで映画・欧米ドラマは見るけど韓国ドラマは見ない」という新たな層を取り入れることが出来たという事が考えられます。
また、現在は、これだけブームになったので、「イカゲーム」を観るためにNetflixに加入する、という層も増えたことでしょう。

先ほど説明したように「厳しい韓国社会をリアルに描いている」「ストーリーのテンポがよい」「Netflixが高額の制作費を投資している」「深いメッセージ性がある」作品は、他にもたくさんあり、それぞれの点については、むしろ「イカゲーム」よりも優れた作品も多く存在します。

韓国ドラマに関しては「食わず嫌い」や「途中で離脱」という層も多いことから、今回のヒットの理由を分析するにあたっては、「国を超えて多くの人が作品を観る」という流れが起こる過程において、

1)多くの人が観ようと思った理由
2)最後まで離脱せずに見続けられた理由

がどこにあるのか?を分けて整理してみたいと思います。

特に、これまでの韓国ドラマにおいては、1)の壁を超えさせることのハードルがものすごく高く、観始めたとしても「途中で離脱してしまう」という人も少なくないのが課題でした。

これは「どうしてこんなにクオリティが高い作品を観る人が少ないのか?」「韓国ドラマの本当の魅力をより多くの人に伝えたい」と思って発信している私が、常に頭を悩ませてきた点でもあります。

「イカゲーム」のヒットに関してはまず、1)2)の観点において、ポジティブな理由というより、「これまでのマイナス部分が払拭された」という側面がとても大きいと考えています。

1)多くの人が観ようと思った理由

なぜ幅広い層の人が、「まず1話を観てみよう」と思ったのか?これについては「認知」と「行動」に分けて整理してみます。

「認知」=「『イカゲーム』という作品を認識する」という観点でいうと、やはり「気になって覚えやすい変なタイトル」と「カラフルなビジュアル」が功を奏したことは間違いありません。これは、これまでの韓国ドラマには、なかなかなかったユニークなものです。

ちなみに、実は当初、Netflix側は「イカゲーム」という韓国固有の遊びの名前を表したタイトルは、世界では受け入れられないだろうと考え、「ラウンド6」に変更することを提案したそうです。

しかし、ファン・ドンヒョク監督が「イカゲーム」のままで行くことを求め、このタイトルに。(ちなみにブラジルでのみ「Round 6」というタイトルで公開されてます。理由は「イカゲーム」を直訳すると大統領候補の名前になってしまう、など様々な説があります。)

「イカゲーム」という、覚えやすく好奇心をくすぐるタイトルが、人々の認知に大きな効果があったことは明らかでしょう。

また、ビジュアルに関しても、特にあの「だるまさんがころんだ」の女の子の人形は、一度見ると忘れられないインパクト。

そして、ちょっと気になって、予告編を数秒再生してみると、カラフルな迷路・お城のような独特の世界観に惹きつけられます。

ここで、一番のポイントは「韓国ドラマっぽくない」こと。

男性や映画・欧米ドラマファン層からすると「韓国ドラマだけど、”恋愛もの・イケメン系”ではなさそうだ」という印象、もしくは韓国ドラマであること自体を感じさせず、純粋に「これまで見たようなデスゲーム系っぽくて楽しめそうだ」と思えた、というのはこれもまた「イカゲーム」ならではのユニークな点です。

特に日本においては、「愛の不時着」以降、ヒットする作品は、ジャンルが多様化してきたとはいえ、やはりどこか恋愛要素があり、いわゆる韓流スターが登場する作品が中心。「愛の不時着」も「梨泰院クラス」もタイトルのインパクトはあるのですが、「純愛」「イケメン俳優」「復讐劇」という、それまでの日本での韓国ドラマのイメージを大きく超えてはいませんでした。

「イカゲーム」は、これまでの「韓国ドラマ」のイメージと全く違う新鮮さがありながら、「デスゲームってことは、ああいう感じね」という、大体の予想がつくという絶妙なライン。

人は全く予想のつかないものに自分の時間を投資したくないものなので、この「ある程度内容が予想できる」ということもとても大事な要素だったと思います。

そして、人々に「まずは1話を」という行動を起こさせるのに最後にポイントだったのが「作品のコンパクトさ」。

いくら話題で、面白そうでも「1話90分✕16話か…」という作品の尺が、ハードルになることが多かった韓国ドラマ作品において「50分前後✕9話」という短さも、重要なポイントです。

ちなみに、「イカゲーム」以外にも、最近の韓国ドラマは、数年前からこのようなコンパクトな尺の作品も増えてきており、「韓国ドラマは長い」は昔の話になりつつあります。

これは「長尺の動画は見ない」という若い世代のニーズを分析しながら、1話30分のドラマなど、国内向けにも作品の新しいフォーマットが模索されてきた流れを受けています。

韓国ドラマのイメージを打ち破る「気になって覚えやすい変なタイトル」「カラフルなビジュアル」「デスゲームというジャンル」と、視聴の心理的ハードルを下げる「作品のコンパクトさ」。

これまで、新しい層の行動を阻んでいたマイナス要素がうまく解消され、新鮮なイメージで好奇心をくすぐったことが、多くの人を「とりあえず1話観てみる」という行動まで導けた要因と言えるでしょう。

こちらは梨泰院駅を2度目に訪問した時。映像には映っていませんが、構内は1回目より明らかに人が増えていて人気の広がりを感じました。(最終的には密状態になり、予定より早く終了したんだとか)

2)最後まで離脱せずに見続けられた理由

そして、1話を見た人が最後まで見続けられた理由。コンパクトなだけに、1話からすごくテンポが良かったか?というと、序盤は決してテンポが良いとは言えない展開でした。私もハマったのは3話からだったし、韓国でも序盤の展開は「ルーズだ」「テンポが悪い」という声も多くありました。

ただ、ここでも人々を「もう少し観てみよう」と思わせたのは、やはりその後の展開の予想がつき、一定の面白さが保証されている(だろうと人々が考える)デスゲームというジャンルだったことが大きいと思います。

*なお、韓国ドラマを初めて見る人にとっては、もしかしたら、俳優たちの演技力や演出・美術のインパクトだけでも、1・2話からすぐに惹きつけられたのかもしれません。

こうして、それぞれハマるタイミングは異なれど、後半は一気に最後まで見てしまうテンポのよさがあり、国や性別や年齢を超えて幅広い層がハマった「イカゲーム」。

なぜ、そこれほどのヒットに繋がったのか?ポイントをまとめてみると…

幅広い層が理解できるシンプルなゲームをベースにしながら、普遍的な人間の感情・社会に対するメッセージを中心にそえたこと

→「わかりやすくエンタメとして楽しめる」とともに、それぞれの視点で登場人物たちに「共感」でき、「それぞれの解釈を語りたくなる」つくり

まずエンタメとして幅広い層が「面白い!」と思える内容で最後まで完走させ、「共感」と「それぞれの解釈を語りたくなる」つくりが余韻と口コミを生んだと言えます。
「イカゲーム」の内容を分析して、「こんなに深い意味が込められている」とか「韓国社会をリアルに描いている」という解説を見かけますが、その解説が正しいかどうかよりも、観る人が、それぞれの解釈を語りたくなるつくりであることが大事。
ちなみにそれは「イカゲーム」特有の魅力というより、むしろ韓国コンテンツ全般の特徴なのですが、これまでは「幅広い層が面白いと思って最後まで見られるエンタメ性」と「尺のコンパクトさ」が不足していたため、そこまでたどり着かない人がほとんどでした。
「尺のコンパクトさ」については、すでにNetflixオリジナルにおいては定着しつつあるフォーマットだったとして、やはり「幅広い層が面白いと思って最後まで見られるエンタメ性」が一番のキーポイントだったと思います。
この点について、ファン・ドンヒョク監督は、インタビューで明確に「世界を意識した」「秘訣は”シンプル”であることだ」と話しています。
インタビューでは、「最も韓国的なものが、最も世界的なものになりうる」という韓国国内のクリエイターたちの間で定説になりつつある言葉を引用しながら、「ゲームはシンプルにして、ゲームよりも”人が見える作品”にした」と語り、常に「人」や「社会」をリアルに描いてきた韓国コンテンツらしさや、「イカゲーム」という韓国の昔ながらのゲームをモチーフにすることも忘れなかったと話しています。

複雑なゲームに、自分の意志とは関係なく参加させられる従来のデスゲーム作品では、ゲーム自体の奇抜さ・面白さが中心ですが、「イカゲーム」は逆。

ゲーム自体はシンプルであり、参加者たちは自由意志で参加できるため、ゲームそのものではなく、それぞれの意思で参加する「人」にフォーカスがあたっています。

だからこそ、これまでのデスゲーム作品よりも、幅広い層の人たちが面白いと感じ、共感することができたのでしょう。

加えて、まさかの大物俳優をカメオ出演させたことで、コアな韓国ドラマファンが満足するポイントもしっかり作っているのも秀逸です。
一方で、「普遍的でシンプルである」ということを意識したからか、各キャラクターの描写は、韓国国内での最新のトレンドと比べると、やや「典型的」「古い」と感じてしまう部分もあります。
ファン・ドンヒョク監督は、これまでの韓国コンテンツのヒットの理由、そしておそらくさらなるヒットのために何がネックなのか?もかなり分析したことでしょう。当然その中には、監督がインスピレーションを受けたという日本のデスゲーム作品の分析も含まれていたに違いありません。
こうして、明確に世界に訴求するための戦略を練って「幅広い層が面白いと思えるエンタメ性」を緻密に作り上げたファン・ドンヒョク監督。
これこそがまさに、これまでの韓国ドラマにはなかった「イカゲーム」のヒットの理由です。
これまでも、日本では「韓国ドラマは、そもそも世界市場を狙っているから違う」という話がよく出ていましたが、むしろ「イカゲーム」以前に日本でヒットした韓国ドラマは、世界を狙って特別に工夫した作品ではなかったし、どちらかというと日本だけで特別にヒットした作品がほとんどでした。
しかし、この「イカゲーム」はまさに、本当に「世界を狙ってヒットした作品」。
幅広い層=”マス”にウケるのに必要なのは、深さや突出した素晴らしさより、シンプルでわかりやすいこと。そしてSNS時代においては、人に話したくなるユニークさや、バイラルで広がっていきやすいキャッチーな要素も大切です。
先ほど説明した「幅広い層が面白いと思って最後まで見られるエンタメ性」をどう作るか?というストーリー部分以外にも、インパクトのあるビジュアル、耳に残るクラシック音楽などのOSTなど、細部まで「魅せ方が上手いな〜」と思ったポイントがいくつもありましたが、それらの背景にある明確な世界戦略こそが、これまでの韓国ドラマにはない「イカゲーム」が本当にヒットした理由なのです。

海外とは異なる韓国での評価

*ここからは本格的なネタバレ・辛口も含みますので、ご注意ください。

では、「イカゲーム」は韓国国内ではどう評価されたのでしょうか?これは公開3日後時点でのツイート。

この時点では、こんなにも世界的ヒットになることは誰も予想していなかったのと、韓国国内でもまだ、相当なドラマ好き&観る目が厳しい層が視聴していた時期。ただ、それから約1ヶ月経って、これだけヒットした後でも、大枠の評価は、この時と大きくは変わっていません。

確かに韓国でもブームになり、多くの人が視聴しましたが、決して「これが最高傑作だ!」という評価ではなく、批判的な意見も一定数存在し、盛り上がっている海外での反応と比べると、冷静な意見も多いです。(これは、映画「パラサイト」のときの評価ととても良く似ています)

「イカゲーム」は確かにエンタメ作品としては面白いのですが、作品の完成度やメッセージ性など作品性という意味では、その前の「D.P.」のほうが評価されている印象。

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もちろん、世界で評価されたことは好意的に受け止められているし、海外と同じように、作品に便乗した商品やイベント、番組でのパロディなどが多く見られ、ブームであるのは同じです。ただし、作品の「評価のポイント」は、海外とはやや異なる部分があります。

先ほどから、日本での「深いメッセージ性がある」「韓国社会をリアルに描いている」という分析を批判的に取り上げる理由が、皮肉にもその2点こそが、韓国国内では「イカゲーム」の残念な点として指摘されているポイントだからです。

1)メッセージ性に関する指摘

海外の視聴者にとっては、女性や老人、外国人労働者などが”弱者”として描かれ、社会の構図を表していたり、社会風刺やメッセージ性が作品の随所に見られたことが新鮮に映り、「あれはこんな意味がある」と人に語りたくなるしかけにもなっていたと思います。

ただ、これらの描写は韓国視聴者にとっては、目新しいことではありません。

周りの韓国人からは、作品の面白さは認めつつも「結局は何を伝えたかったのか」「エンディングでガクッと来た」「メッセージ性はいまひとつ…」という声を多く聞きます。

韓国では「イカゲーム」は「面白い」けれども「深い」という評価は多くなく、「よく作られたエンターテイメント作品」という評価が一般的です。

なお「メッセージ性」については、韓国国内ではその描き方まで厳しく評価されます。

メッセージを表現するのに、いかにも直接的な表現や、特定の思想や政治的意図が感じられたり、視聴者の感情を揺さぶろうとする意図が見えすぎる台詞・演出は、逆に嫌がられます。

作品のメッセージとは、あくまで視聴者が感じ取るもの。このさじ加減は本当に難しい部分です。

また「過酷な現実をリアルに描く」事自体は、他の作品でも散々行われてきたので、その現実を踏まえて観る人に何を伝えるのか?という部分までなければ、視聴者を唸らせることはできません。

エンタメと社会風刺・メッセージ性がうまく組み合わせられているだけでも新鮮に映る海外視聴者と、こういった描写に慣れている韓国視聴者が求めるものはやはり異なります。

資本主義社会における、持つものと持たざるものの構図。「イカゲーム」よりも公正・平等でない外の世界。

特に最近、一個人の努力ではどうにもならない、社会システム自体の問題や限界を指摘する作品はすでに他にも多く作られている韓国国内においては、こういった問題を並べただけで、最後には「人を信じるのか?」という個人の視点に接続しただけで終わってしまった部分が、物足りなく映った視聴者が多かったようです。

2)各描写についての指摘

日本では「韓国社会をリアルに描いている」と評される部分については、先ほど紹介したように韓国国内では「典型的」「古い」という意見や、特定の描写については批判的な意見もあります。

まず、最も指摘されたのが女性の描写について。女性が弱者として描かれたり、ゲームの主催者や管理者は男性が中心であること。そして、VIPのシーンで女性を置物のように扱う描写(*)、そして特に、自分を犠牲にして男性に守ってもらおうとするミニョのキャラクターについては批判の声が少なくありませんでした。

*VIPシーンの演出については、監督がインタビューで「あの中には男性も含まれている。女性というよりは人を道具化しているという演出意図だった」と説明しています。

その他にも、「反・キリスト教的な描写が多い」という批判や、世界でも指摘されている「暴力描写があそこまで必要だったのか?」という点についても議論があります。

「どの点に違和感を感じたか?」は、人それぞれなので、もちろんそれぞれの批判に対する批判もまた存在するのですが、どれも「リアルというより、いかにも典型的な表現である」という指摘が多く、ここが、描写のリアルさが評価された「D.P.」と評価が分かれる部分です。

なお、「パラサイト」の時もそうだったのですが、日本では韓国作品が世界的にヒットすると、「作品より過酷な韓国社会の実態!」みたいな、記事が急に増えますよね…(「韓国社会に詳しい◯◯氏に聞いた」という… 笑)

たいていその内容は、特定の一部分だけを取り上げて全体がそうであるかのように書かれていて、実態とはズレがあるし、どこか「日本よりひどい」「日本のほうがましだ」という目線を背景に感じてしまい、韓国の友人たちが見たら、違和感を感じるだろうな…というものばかり。

*あれは「リアルを知りたい」というより、最初からPVが取れそうな刺激的なタイトルが決まっていて、それに合うように書いてください、というようなものが多いです。

出来る限り、「リアルはどうなのか?」については私もブログで発信していきたいなと思うので、みなさんも、ああいう記事見て「そうなんだ〜」と思わないように気をつけてください(笑)

3)「斬新さ」についての指摘

そして、「イカゲーム」を批判する人たちの中で、最も大きな批判ポイントとなっているのが、作品の斬新さ・オリジナリティについての指摘。

特に配信初期は、日本国内以上に「日本の作品と似ている」という批判が多くありました。特に最初に「だるまさんがころんだ」が登場するという点において「神さまの言うとおり」との類似性を指摘・分析する視聴者が続出。

韓国国内の作品はもちろん、日本を含め海外の作品も非常によく観ている韓国視聴者の間では、日本国内以上に熱い議論が盛り上がっていたのです。

その指摘・分析の内容をみると、本当に「日本人以上に日本の作品をよく知ってるなあ」と感心するものも多くありました。

頭の中に比較対象となる作品が多くある視聴者たちにとって、「これまでの作品と何が違うのか?」という「斬新さ」は、韓国国内で作品が評価されるうえで最も重視されるポイントと言っても過言ではありません。

この「斬新さ」についての議論は、初期は「日本の作品との類似性」に焦点があたっていたものの、最終的には先ほど紹介した描写が典型的であることや、メッセージ性が既存の作品のインパクトを超えなかったことなども含めて、語られるようになりました。

4)韓国コンテンツの世界戦略

というわけで、韓国国内では「深い」「リアルだ」というより、「よく作られたエンターテイメント作品」という位置づけの「イカゲーム」。

ただ、今、紹介した韓国国内での指摘ポイントはどれも、まさに「韓国国内ではなく、世界に向けて作った」からこそ、生じたものだとも言えます。

韓国視聴者が求めている、「リアルで共感できる描写」「深いメッセージ性」「これまでの作品にはない斬新さ」は、どれも海外の視聴者には、なかなか感じることができない部分です。

また、それは「幅広い層の視聴者が楽しむ」事を考えたときには、ボトルネックになりうる部分でもあります。

ファン・ドンヒョク監督は、過去に、映画「トガニ 幼き瞳の告発(2021年)」で、韓国の聴覚障がい者学校で実際に起こった性的虐待事件をリアルに描き、その後、映画の影響で「トガニ法」という法律ができるほど、社会を大きく動かした作品を作った監督でもあります。

韓国国内向けに、もっとリアルに、もっと強いメッセージ性で作ることも可能だったでしょう。

しかし、最初から、世界の人達に観てもらうことを想定に作ったのが今回の「イカゲーム」。「幅広い層が面白いと思えるエンタメ性」と韓国視聴者が求めるものは異なります。そう考えると、国内の視聴者の反応は想定内で、監督の狙い通りなのかもしれません。

また、もちろん紹介したような批判があるからといって、国内で作品が認められていないわけではありません。

どんなに素晴らしい作品でも、常に様々な視点から「どう感じたか」「もっと良くなるためにはどうしたら良いのか?」という視聴者の率直な意見が飛び交う環境がまさに、韓国コンテンツをここまで育ててきたと言えます。

こうしてみてみると、映画「パラサイト」と、「イカゲーム」のヒットには共通点があります。

表面に見える韓国らしいユニークなものが世界の人々に新鮮に映り、その根底にある普遍的なもので共感を得たこと。

「ユニークさ」と「普遍的なもの」の絶妙なミックスが両作品の成功の理由と言えます。

一方で、「イカゲーム」が「パラサイト」と異なるのは、明確に最初から世界を狙ったということ。この「イカゲーム」の世界的成功を受けて、今後は同様に、最初から世界の視聴者をターゲットにした作品も多く登場してくるのではないでしょうか。

最後に

ということで、「イカゲーム」の世界的ヒットの理由について、韓国ドラママニアとしての分析、そして韓国国内の評価などを紹介しました。

最初から明確に世界を狙ってヒットした「イカゲーム」。韓国ドラマ好きからしても、良い意味で韓国ドラマっぽくないことが功を奏したドラマだと思っています。

映画、K-POP、ドラマ…ここ数年のK-コンテンツのヒットの要因を分析しながら、韓国コンテンツは常に進化を続けています。今回のように映画監督がドラマを撮るという流れもどんどん増えてきているし、この絶え間ないチャレンジと進化のスピードがK-コンテンツの強さです。

韓国ドラマは一度足を踏み入れてしまえば、ジャンルも多様だし、好みによって様々な楽しみ方ができるのですが、何と言っても最初のハードルが高い。なので、こういう「最初の一作品目の壁を突破させてくれる作品」が増えてくることはとても嬉しいです。

なお、韓国視聴者も絶賛した、本当に韓国ドラマらしい、深いメッセージ性やリアルな描写を観てみたい方は、ぜひ「D.P.」も観てみることをおすすめします。

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また、社会派作品という意味では、先ほど紹介したファン・ドンヒョク監督の映画「トガニ 幼き瞳の告発(2021年)」も必見です。かなり衝撃的な内容なのですが、それでも事実よりは何倍もマイルドにしたんだそうです。(huluで見られるようです)。

「イカゲーム」をきっかけに、韓国ドラマ沼の世界に足を踏み入れる方が増えることを期待します…!

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*画像はNetflix Koreaからお借りしました。