【映画レビュー】IMF危機を扱った「国家が破産する日」

こんにちは、Misaです。今日は、最近、韓国でヒットした映画「국가부도의날(国家不渡りの日)」について紹介します。1997年のIMF危機を扱った映画です。

IMF危機を扱った映画が初めてということで、公開前から注目されており、すでに世界17カ国での公開が決定。日本では、2019年11月8日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて全国順次公開だそうです。

映画「国家破産の日」、世界17カ国に先行販売・・・来年下半期に日本公開確定!

「タクシー運転手」「1987」のような、

One more Korea

映画好きの韓国人から強くお勧めされていた、映画「1987、ある闘いの真実」を日本で観てきました。鑑賞後、やや放心状態で帰…

歴史的史実を扱った骨太な映画がお好きな方なら、興味深く観られると思います。

IMF危機はちょうど「1987」の10年後。民主化運動があり、国家破産があり、朴槿恵政権の交代劇があり…韓国ってこのたった数十年の間に信じられないような劇的なことがいくつも起きていて、なんて激動の時代だったんだろう、とつくづく思います。歴史的史実としても興味深いし、映画としてもよくできた作品。

そして、最近は、老後2000万問題なども話題になり、国って最後は手の平返しするんじゃないかと、感じ始めている私たち日本人にとっても他人事ではないストーリーです。(私は、最近日本の借金や年金に関するニュースを見るたびに、この映画を思い出します。)

是非、日本公開時には沢山の方に見ていただきたい映画なので、今日は簡単にあらすじや見どころを紹介したいと思います!

交差する3つのストーリー

映画の中では、この経済危機での人々の苦しみを、3つのストーリーを通じて描いています。

まず、メインとなるのは、経済危機をいち早く察知し対策を練る、財政局の「非公開対策チーム」の人々。
主演のキム・ヘスは、そのチームで中心となって働く女性です。

彼女は「この状況をいち早く国民に知らせるべきじゃないか」と主張しますが、結局、政府は状況を国民には知らせないまま(むしろ「危機的な状況なんてない」と国民をだましながら)事態は悪化していきます。

「韓国に経済危機はない」

もう一つは、そんな政府内での議論の最中、何も知らずに有名百貨店との大型取引の契約をしてしまう工場のストーリー。この経済危機で、大きな打撃を受けた人々の苦しみを描いています。

そして3つめは、そんな事態をいち早く察知して利益を得た人々の話。ユ・アインが演じます。(いい映画には、いつもユ・アイン!)

この3つのストーリーが、「国家破綻まで残り一週間」というところから描かれていきます。

見どころ1)リアルに描かれる当時の様子

この映画では、当時の企業が実名で登場します。
サムスンや現代などはもちろん、工場が取引する百貨店は、のちに倒産してしまう「ミドパ百貨店」。

また、ところどころ映画内で登場するのが、本物の当時のニュース映像。
これがとても衝撃的!
実際の事実を知ったうえで、当時の危機前の報道の様子を見るとゾクッとします。外国人の私が見てもハッとする映像なのに、韓国人にとっては、リアルに当時の痛みを思い出す映像でしょう。

そして、刻一刻と変化する状況が、生々しく描かれていきます。キム・ヘスたちの対策室の部屋には、100社ほどの国内企業のリストが張り出され、日に日に、「倒産」の印がつけられていき、空港の両替所では、分刻みでウォンの為替レートが悪化していく…。

教科書で文字だけで知っていた知識が、初めてリアルに浮かび上がってきます。

この映画の脚本家のオム・ソンミンさんは、インタビューで「できるだけ様々な人たちの苦しみを映画で表現したかった」と答えています。

「国家不渡りの日」の脚本家オム・ソンミンが語る「映画を書いた理由」/東亜日報

当時の資料の解読や、人々へのインタビューを通じて、細かな設定・セリフを作られたようですね。

1点だけ疑問だったのは、「当時の韓国の中央官庁で、主人公のように女性が中心的な役割を果たせることができたのかどうか?」ということでした。インタビューにもあるように、映画として作る上で結果的に女性の設定になったようなので、おそらく現実的には女性はここまで活躍できなかったのが実態では、と思います。

ただ、そこはちゃんと意識されているのか、途中にこんなセリフ、シーンも挟みこまれています。

「だから女性は感情的なんだ。理性的に判断することができない」
「もういいから、お茶でも入れてきてくれないか」

逆に言うと、だからこそ女性を主人公にしたのも、ヒットの理由の一つでしょう。フェミニズムの問題は今もまさに旬なテーマでもあるので。

というわけで、日本で公開の際には、ぜひ歴史的な事実を事前に確認した上で、見ていただけるとより深く楽しめると思います!

見どころ2)印象的なセリフと現在への警告

そして、この映画はセリフも印象的。何気ないセリフに深い意味が込められています。

「むしろ、倒産させればいい。これで国が生まれ変わることができる」(キムヘスと対立する財政局次官)
「お金を稼いだからって、喜ぶな!」(ドルで儲けた投資家 / ユ・アイン)
「誰も信じてはいけない。良くしてくれる人も信じるな。自分自身だけを信じろ。」(工場長)

何より最後のメッセージが一番印象的でした。

「危機は繰り返し、危機は機会でもある」
「もし、また国家破産の日がまた来たら?」
「いつも冴えた目で、世界を見つめること。二回負けるのは、嫌だから」

単に過去を振り返る映画なのではなくて、現在への強いメッセージが込められています。(韓国映画のこういう骨太さ、好き!!)

見どころ3)実力派俳優の演技

そしてやはり、キム・ヘス、ユ・アインら実力派俳優の演技が素晴らしいです。

特にキム・ヘスは、事態を国民には隠そうとする同僚たちとの対立、結果的に苦しむ国民たちの様子を見て葛藤する様子を、素晴らしい演技で表現していてハマり役!そして、もちろん、いい映画には欠かせないユ・アインも相変わらず素晴らしい存在感。

それから、今回のキーマンである財政局次官は、こちらの俳優さん(トッケビにも出てました!)。インパクトのある演技を見せます。

韓国は演技力の高い役者がいるからこそ、こういうシリアスな題材の映画がしっかり作れるんですよね。

韓国での反応・評価

NAVERでの評価もまとめておきます。

・観客評価:8.76点/10点
・評論家・記者評価:6.50点/10点

現時点で動員数は、370万人。日本でボヘミアンラプソディーを観た人の2倍ぐらいの数。
話題になった映画ほど、逆に評価が分かれるので、その中では評価が高いほうではないでしょうか。この映画の感想を韓国人に聞くと、映画の内容というよりは、「当時を思い出して…」という話が良く出てきます。

ただ、私の周りの何人かの韓国人の友人に聞いたところでは、もちろん世代によっても感じ方は違うし、当時の家庭への影響の度合いも、お父さんの職業によって異なっていたよう。

すべての国民が全員、非常事態!といった状況というよりは、日本でバブルがはじけたときの雰囲気に近かったのかなと感じました。(ここは、引き続き色んな世代の人に意見を聞いてみたいです。)

韓国ではこういう事実をベースにした映画が多いので、映画を観ていると、普段はなかなかきっかけが無いと話しにくい内容も、映画の話題から自然と会話できるので、とても良いきっかけになります。

まとめ

というわけで、見どころたっぷりの「国家不渡りの日」。観終わった瞬間に、「この映画絶対日本でも公開してほしい!」と思ったので、公開が決まったということで嬉しいです。

日本で公開されたら、「1987」に続くヒット作になるのではないでしょうか。「タクシー運転手」「1987」ほどのヒューマンドラマ要素は強くないのですが、この映画は、特に男性のビジネスマン層が観ても面白いと思うんですよね。

この映画をきっかけに、新しい層の方々が、韓国映画の魅力を知ってもらえたらと思います。(難しい経済用語と、英語も多かったので、私ももう一度日本で隅々のセリフまで理解したい!)

韓国の現代史を扱った骨太映画を見るたびに、私は、自分も含めた日本人が「国」とか「社会」とかに対して、いかに普段関心が低いかということを感じさせられます。

7/25追記
邦題『国家が破産する日』として11月8日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて全国順次公開が決定したそうです!

やっぱりシネマートさん!!。邦題も英語でなくてよかった…!日本語にしたことで、「国家破産って、日本でももしかして…?」という人々の見えない不安に引っ掛かりやすくなるでしょう。逆に日韓関係の悪化を背景に、「韓国って…」という方が観に行くのかもしれません。きっと、韓国の歴史と思って観に行った多くの方が、逆に日本について考えされられることになるのではないでしょうか。ヒットを祈願します…!!

↓ 日本版の予告編も公開されました。

追記:現在Amazonプライムでも見られるようになっています。

국가부도의날(邦題:国家が破産する日)

・韓国公開日:2018.11.28
・上映時間:114分
・2019年11月8日からシネマート新宿、シネマート心斎橋にて全国順次公開予定

ユ・アイン出演のヒット作