「君は私の春」を韓国視聴者はどう観たか?記憶に残るヒーリングロマンス

韓国在住KdramaライターMisa
「君は私の春(너는 나의 봄)」を観終わった私が、韓国での作品の反応、この作品の魅力と残念だった点や感想などを、ネタバレなし・あり両方で解説します!

「君は私の春」の基本情報はこちら(4話視聴時点の記事です)。これから観る方は、まずはこちらの記事をご確認ください!
関連記事

韓国在住K-dramaライターMisa韓国で現在4話まで放送中の「君は私の春(너는 나의 봄)」について、実際視聴した私が、作品概要・キャスト・企画意図・韓国視聴率などを紹介します。「君は私の春」はこんなドラマ![…]

「君は私の春」視聴後の感想

2021年7月から放送が始まり、8月に最終回を迎えた「君は私の春(너는 나의 봄)」。主演はキム・ドンウクとソ・ヒョンジン。

この作品、一言でいうと、すごく大好きだったけど、その分、残念さも多く残った作品…!

というのも、「うわ〜最高!!!歴代級だ!」というシーンと「何だこれ?」という展開の差が激しくて、話数ごとに評価が上がり下がりするという不思議な作品でした。

1話時点

6話時点

7話時点

この作品は「ヒーリング+ラブストーリー+スリラー」という3つの要素が混じっていて、どこにフォーカスするかによって、話数ごとに物語の雰囲気がガラッと変わってしまうのです。

それも含めて斬新で「これは凄い名作かも…」と思って観続けていたのですが、やはりこのジャンルミックスがうまく行かずに、最終的には名作になりきれなかった…残念!!!

ただ、作品全体の仕上がりとしては残念だったものの、全編を通じた俳優の演技、ところどころで突出して素晴らしかった演出・セリフの数々は、本当に”歴代級”のものも多く、それらはずっと記憶に残り続けるだろうなと思います。

今回は、前半はこれから観る方に向けて、ネタバレ無しで作品の魅力・見る時の注意点をお伝えし、後半は観終わった方向けに、作品の良かった点・残念だった点。そして、韓国視聴者の反応などをお伝えしたいと思います。

*「ここからネタバレあり!」というところには、表記しますので、未視聴の方は必ずご確認の上ご覧ください。

「君は私の春」を観る前に知っておきたこと

知っておきたいポイント

「君は私の春」のポイント
キム・ドンウクとソ・ヒョンジンのケミが最高な大人のヒーリングラブストーリー。
キム・ドンウクとユン・バクの再発見。素晴らしい演技にハマらずにはいられない。
演出・セリフ・OSTの調和が胸を締め付ける最高のシーンたち(7話〜9話/13〜14話あたりが最高!)
混ぜてしまったスリラーが問題:ハラハラ→もやもや→最後どうでもよくなる(笑)
演技・演出・セリフは最高だけど、脚本の”構成”に難あり
ということで、深くハマってロスになってしまうほどの素晴らしい要素と、残念な点が混在する凸凹した感じの独特な作品。
元々、放送作家でもあり、作詞家でもあるイ・ミナ作家の感性が良くも悪くも爆発し、それが突出したときには最高のシーンを作り出すのですが、やや感性的すぎてわかりにくい部分や、ドラマ全体の構成としては視聴者の視点を置き去りにしてしまうような残念な部分も目立ちました。

「君は私の春」韓国視聴率

「君は私の春」の韓国視聴率はこちら。最高視聴率は3.4%と、これだけの俳優を使ったにしてはとても低い数字。この俳優たちなら、少なくとも5%、うまく行けば10%超えも狙えたのではと思います。

ちなみに、あくまで私の感覚でざっくり各話数の内容がスリラーとラブストーリーどちら寄りだったのか?も書いてみました(笑)

そして、グレーの部分が、特に「う〜〜〜ん」と思った回。逆に、黄色の部分が特にハマって見た回です。(あくまで私基準ですが…)

これを見るとやはり、「次が気になる!」と思ったタイミングで、いきなりジャンルが代わってしまうことが満足度を下げ、視聴者の離脱を引き起こしていることが読み取れます。

最高だった役者の演技

一方で、俳優の演技は本〜当に最高!!!それぞれ、過去作までさかのぼって観てしまいたくなるほど、素晴らしい演技にはハマらずにはいられません。

「脚本には課題が多かったが、俳優たちの素晴らしい演技が引っ張った作品」と言われたほど、俳優たちの演技は韓国でも好評でした。
特にキム・ドンウクの繊細な演技は、「こんなに演技がうまかったんだ」「今までのイメージが変わった」と高い評価を受けました。
元々は、ユン・ゲサンが演じる予定の役でしたが、キム・ドンウクで大正解!!!!(むしろユン・ゲサンだったらこんなにハマれなかったはず。。)
そして、この二人の恋愛が、大人なのに物凄く可愛らしいところもあり、俳優同士の相性も最高でした…!(後半は、リアルに付き合ってるんじゃないかと噂が出るほど…)
この俳優の素晴らしい演技と、名シーンの数々は、是非、多くの人に見ていただきたい部分です。
ヒーリングラブストーリーと思って観始めると、序盤はスリラー色が強いため、驚くでしょう。
ただ、中盤からラブストーリーがメインになってくるあたり(7〜9話)で一気にハマってしまいます。
私は、友人には「とにかく7話まで頑張って観て!」と伝えています(笑)
素敵なキム・ドンウクが待ってるから…!(写真は不思議なオフショット 笑)
そして、トラウマを抱えている方、または最近ちょっと辛い出来事があった方々などにとっては、癒しになる名セリフ・名シーンがたくさんあります。
お伝えした通り、ちょっと構成には難があるので、見ていてもどかしかったり、もやもやが残る可能性は高め。
そんな時は、またこのブログに戻ってきてくだされば、一緒にもやもやを解消しましょう(笑)
ということで、ネタバレ無しのご紹介はここまでです!!

「君は私の春」が伝えたかったメッセージ

※ここからはネタバレがありますので、未視聴の方はご注意ください※

”7歳の私”から解き放たれること

以前の記事で、「君は私の春」の企画意図について紹介しました。

あなたの”7歳”から、あなたはどれくらい遠くに逃げてきたんですか?
そんな問いかけから始まる企画意図には、こう書かれています。
7歳の私を力強く抱きしめてあげて、誤解を解いて、一緒に泣いて、ようやく解き放ってあげることで私たちはもしかしたら、もっと丈夫で幸せになれるかもしれないと。
あの時、同じ教会にいて、それぞれが”7歳の私”から遠くに逃げて、大人になったタジョン、ヨンド、そしてチェイス。
しかし、タジョンとヨンドの二人、そしてチェイス兄弟が辿った道は大きく違いました。
父親が母親を傷つけるのを目の当たりにした衝撃と、何もできなかった自分への罪悪感を抱えたまま大きくなったタジョン。
兄のために自分の腎臓をあげて、助けてあげられなかったこと。母親の望みを叶えてあげられなかったことに罪悪感を感じながら生きてきたヨンド。
その痛みが誰かへの恨みではなくて、誰かを助けられなかったことへの罪悪感であり、それぞれ自分に手を差し伸べてくれる母親、父親がいたタジョンとヨンドは、大人になって出会い、お互いの傷を癒やすことが出来ました。
作家は、7歳の自分から逃げてきた二人ような、傷を抱えた大人たちに、こうメッセージします。
あの日のあなたは抱きしめてあげられないけれど、立派に耐え抜いた今のあなたを抱きしめてあげたい。つらい思いをしないで。あなたは悪くない。
一方、チェイスは、非難と虐待を受け続けながらも、誰にも救ってもらえなかったという絶望感が、怒りと恨みになり、他人を傷つける罪を犯してしまいます。
目の前が真っ暗になって、全部終わらせたいような状況の人にとって、光が1つ見えるだけで、遠くから見守っているだけでも、指先にちょっと触れるだけでも十分なんです。
3人のような大人は、実はまわりに沢山存在する。そんな大人の”傷”が垣間見えた時、
「君の話を聞いてあげるよ」「私がなにか話そうか」そんなちょっとした会話の一つが、「私が見守っている」というちょっとした関心一つが、心に大きな傷を追った人を救う時がある
最終話の後半では、そんな作家の最も伝えたかったメッセージが表現されていました。

タイトル”너는 나의 봄”の意味

そして、ラストシーンからは、なぜ作家がこの作品のタイトルを「너는 나의 봄(君は僕の春)」にしたのか?も見えてきます。

*韓国語の直訳だと「君は”僕”の春」が自然。「君は”私”の春」というタイトルの違和感については後ほど整理したいと思います。

前半は、タジョンの”傷”のほうがクローズアップされていたため、どちらかというと、「タジョンにとってヨンドが”春”」ということかと思っていました。

しかし一転、後半からは、ヨンドの過去と、いつ終わるかもわからない人生を生きていることが明かされ、「ヨンドにとってタジョンが”春”」である印象のほうが強くなってきます。

ちなみに韓国語の”너”と”나”というのは、英語のYouとIに当たるので「君と僕」「あなたと私」どちらとも訳せます。

お互い傷を抱えた二人…ということを考えると、これは「君(タジョン)は僕(ヨンド)の春」でもあり、「あなた(ヨンド)は私(タジョン)の春」でもあるという両方を意味しているのかと思いましたが、最終話の後半の内容を観て、考えが変わりました。

ヨンドとタジョンが屋上で話しているシーンの後のナレーションにこんなセリフがあります。

ヨンド「つらい季節の終わりに、手を差し伸べてくれた あなたは僕の春
タジョン「つらい季節がまた訪れるとしても 間違いなく根気よく 手を差し伸べる 私はあなたの春
ここでポイントなのは、タジョンが「あなたは私の春」ではなく、「私はあなたの春」と言っていること。
ここから、私は、タイトルからイメージしていた、単に「お互いがお互いにとって春のような存在だ」という単純なことではないなと思いました。
「あなたは僕の春だ」とタジョンを大事に思うヨンドの愛。
そして、そんなヨンドの愛が「傷だらけの私でも、あなたにとっての春である」とタジョンを癒やし、再び相手を想い、愛する勇気をくれるということを表現しているのだと思いました。
ちなみに、タジョン(다정)という名前は、韓国語の다정하다(=多情だ、愛情深い、優しい)という意味を込められた名前となっており、そういう意味でも、タジョンは「”愛情深く、優しい”、春のような存在」であることを表現しています。
先ほどのセリフで、タジョンが「あなたは私の春」ではなく、「私はあなたの春」と言うことで、セリフにストーリーが生まれています。
期限付きの人生を生きるヨンドに「永遠に生きたい」と思わせてくれた、春のような存在のタジョン。そんなヨンドの愛が、傷だらけのタジョンに、再び人を愛する勇気を与える…。
そんな、傷ついた二人を癒やす、奇跡のはじまりは「あなたは僕の春だ」という相手に対する愛。
なので、一番最後のナレーションが、ヨンドの「あなたは僕の春」という”誰かを想う僕の愛”を表現して終わっているのではないかと思いました。
「あなたは春だ」という愛が、相手の傷を癒やし、人への関心が、誰かを救えることもある。
そんな「”誰かを想う気持ち”が起こせる奇跡」も、作家が伝えたかったメッセージではないでしょうか。(この点は「人は人の奇跡になりうるか?」を主題にしていた「椿の花咲く頃」とも重なります)
ちなみに、ヨンドの最後のセリフで、あえてタイトル通りの「君(너)」ではなく、「あなた(당신)」という単語を使ったのは、このドラマを観ている視聴者の”あなた”も、誰かにとって”春”でありうるし、また逆に誰かを想う気持ちが、人を癒やしたり、救うこともできるということを、より印象的に表現するためではないかと思いました。

邦題「君は私の春」の問題点

私は、このあたりのヨンドとタジョンのナレーションが始まった屋上シーンを、実は凄くドキドキしながら観ていました。

このままで行くと、邦題を「君は”私”の春」にしてしまったことにより、作品の大事なメッセージが台無しになることが懸念されたからです。

というのも、こういった作品の主題をそのまま表しているタイトルの場合、作品の締めくくりとして、そのままラストのセリフ=タイトルが決めセリフとなって終わることも珍しくありません。

セリフで使われる=そのセリフを言う主体がいるわけですが、「君は私の春」って、タジョンが言ってもやや違和感があるし、ましてやヨンドが言うと、ものすごくおかしい。(そもそも男性が使うイメージがある”君”と、女性が使うイメージがある”私”を組み合わせていることが日本語的にもおかしい)

しかし、それまでの流れで、どう考えてもこれは、ヨンドが、タイトルである「너는 나의 봄(君は僕の春)」と言うのが最後のセリフになるのではということが予想できました。

もしそうなった時、邦題に合わせて、日本語訳を「君は私の春」にしてしまうと、ヨンドのせりふとしては違和感満載&台無しだし、本来の意味通り「君は僕の春」とすると、締めのセリフなのにタイトルと微妙に違う…どちらにしても、事故が起こるな…と思ったのです。(何より、字幕翻訳者さんをすごく苦しめるだろうなと)

*一番最後のキメゼリフの日本語字幕が誤訳レベルで、最後の最後に作品を台無しにしてしまった「ヴィンチェンツォ」の事件を思い出しました。。(今は、修正されています)

関連記事

韓国ソウル在住ブロガーMisa「ヴィンチェンツォ」最終回の最後のセリフの日本語訳に対する考察です。内容はドラマを最後まで観た方向けなのでご注意ください!★2021年5月10日追記なんとNetflixの最後[…]

結果的に、作家さんがたまたま「君(너)」ではなく「あなた((당신))」を使ったことにより、ラストのセリフは「あなたは僕の春」になりましたが、これをラストのセリフだからといって、無理やりタイトルと合わせて「君は私の春」という日本語訳にしなくて本当によかったなと思います。(もしかして、そんなアレンジがされているのでは?と心配しながら字幕を確認しました。)

しかしどちらにせよ、私は、この作品の邦題を「君は私の春」としてしまったことは、二つの意味で問題だったと思います。

一つ目は、作品が伝えようとするメッセージを、日本の視聴者に伝わりにくくしてしまったこと。

結果的には、やはりこのタイトルは、ヨンドが、春のようなタジョンを想う気持ちを表現したものだと、私は解釈しました。

もちろん、邦題を決めるのは、放送が始まる前の段階なので、その時点で結末までわからなかったでしょう。

ただ、逆にだからこそ、結末がわからない放送前の段階で、元の韓国語の意味に中途半端なアレンジを加えることは非常に危険なことなのです。

特に、物語の主題を表したようなタイトルの場合、今回のように、のちにそのフレーズが、そのままセリフとして使われる可能性が非常に高いことは、ドラマをお仕事として扱っている方ならわかるはず。

にもかかわらず、「君は私の春」という、日本語としても違和感のある形にしてしまったのは、そういった可能性を少しも想像しなかったのか…?疑問でなりません。

もし、最後のヨンドのセリフが、タイトルそのままの「너는 나의 봄」だったら、翻訳者さんを困らせる事件になっていたはず…。

韓国ドラマがこれだけ人々を感動させる理由は、その緻密に作り上げられた脚本であることは、これまでも何度も説明してきましたが、制作現場ではとにかく「脚本が中心」で作品が作られています。

どんなスター監督でも、売れっ子俳優でも、脚本のセリフ一つ一つに込められた作家の深い意図を感じ、それを忠実に読み解きながら、作品を作り上げていくのです。

制作者たちが、そうやって丁寧に作り上げた作品のタイトルを、もし例えば「このほうが女性ターゲットに刺さりやすそうだから」「このほうが宣伝する時にインパクトがあるから」という理由で、安易に設定しているとしたら、あまりにも作品へのリスペクトが足りないと言わざるを得ません。

また、今回の場合、そもそもイ・ミナ作家が作詞したソン・シギョンの曲のタイトルも「君は僕の春」であることから考えてもわざわざ、「君は”私”の春」と、アレンジしてはいけなかったはず。
(実際、曲のタイトルをモチーフにしたことは、作家自身が制作発表会で話していました)


二つ目は、マーケティングの観点。

実際に私がそうだったのですが、君と言えば僕、私といえばあなた、が浮かんでしまうため、非常に覚えづらいという意味で、結果、宣伝や口コミ効果にもマイナスになったのではと思われます。

脚本家だけでなく、監督・俳優・スタッフあらゆる人の努力で緻密に作り上げられている韓国ドラマ。その奥深さに視聴者が魅了されている時に、間で作品を届ける方々の意識が、それに追いついていないのでは?と思ってしまう事が最近多々あります。

一つ一つに奥深い意味があるので、邦題の設定や字幕翻訳では、決して、その制作者の意図を改変することがあってはいけないと思うのです。

「君は私の春」名シーンたち

「君は私の春」では、私の中で「これは過去のドラマと比較しても歴代級の名シーン!」と思うような、記憶に残るシーンが多くありました。

そして、それを最高のに盛り上げたオンユの「다정한 봄에게(優しい春に)」のMVには、そんな名シーンの数々が沢山詰め込まれています。

名シーン「友達に…」

その中でも、私が最も大好きなシーンであり、おそらくこのドラマの中で最大の名シーンでもあるのがこのMVの冒頭にも使われている、7話でヨンドが自分の心臓についてタジョンに話すあのシーン。

しかし…この記事を書くために、初めてこのシーンの日本語字幕を確認して、私は衝撃を受けました。。。

そのたった一言に、キム・ドンウクの演技の素晴らしさが光った「우리 친구 할래요?」の日本語字幕

友だちになろう

って、ニュアンス違う〜〜〜〜〜〜〜!!(涙)

これには、このドラマのキム・ドンウクの名演技にハマり、未だにヨンドロスから抜けられない韓国人の友人も憤慨していたほど。

韓国語のニュアンスそのままで訳すならば、このセリフは

僕たち友達になりませんか?
なのです。ちょっとした違いかもしれませんが、このシーンではそんな繊細なニュアンスがすごく重要。
ここでキム・ドンウクの演技が鳥肌モノなのは、このセリフ言う前の”間”と、この短いセリフを言う時の声の震えで、この時ヨンドがどれだけ切ない想いで、一言一言慎重に、タジョンにこの言葉を言ったのかを見事に表現しているからです。
普通の恋愛のように、「永遠に一緒にいよう」「ずっとそばにいるよ」と相手に”約束”をしたいけれど、それができない。でもタジョンを逃がすこともできない。
「そこでだけど…」と、ためらいながら、目の奥に涙をこらえながら…絞り出したセリフが「우리 친구 할래요?」なわけです。
そんなヨンドはここで、「友だちになろう」と一方的に言い切れるはずがありません。
お互いに気持ちがあることは分かっているこの状況でも、「僕たち友達になりませんか?」とタジョンに提案するのが精一杯だったヨンド。
そこに込められた意味は、後にラジオのシーンで明かされたように、タジョンを傷つけたくないと大切に想うからこその一言でした。
(ラジオのシーンも名シーンすぎて、何度も何度も見返しました…!)
ここは英語訳でも、”How about we be friends?”となっており、文字数制限があったとしても、せめて”友達にならない?”など疑問形にしてほしかったなと思います。
実際には、ヨンドの話し方はとても丁寧なので、「僕たち友達になりませんか?」ぐらいが最もニュアンスには近いです。
ちなみにこのセリフの少し前の「あなたへの好意が芽生えたから」も、実際は
「タジョンさんを好きになったから」
と言っています。
「あなたへの好意が芽生えたから」という日本語訳は、確かにこれだけで見ると詩的で美しいのですが、ここでは、「好きになった」とハッキリ言っているのに、その後「付き合おう」ではなく、「友だちになりませんか?」と言うところがポイントなわけで、後のセリフと対比させるためにも「好きになった」とハッキリ言っているニュアンスを生かすべきではなかったかなと思います。

OST「다정한 봄에게(優しい春に)」の意味

先ほど紹介した、OST「다정한 봄에게(優しい春に)」は、タイトルにまた”다정한(”タジョン”ハン)”が使われているので、タイトルは「愛情深い春へ=春のようなタジョンへ」とも読み取ることができます。
イ・ミナ作家が直接作詞をしており、この「僕たち友達になりませんか?」のシーンで表現されているヨンドのタジョンへの気持ちを表した切ない歌詞になっています。

君を捕まえることもできない 逃すこともできない
”永遠” そのありふれた一言が 約束できなくて
私はここに立っている 友達のように

しかも、この歌、歌詞の最後の部分が、

”永遠” そのありふれた一言が 約束できなくても
私はここにいるよ あなたのそばに
私の心臓が ときめく その日まで

最後の一文は、韓国語だと”내 심장이 뛰는 그 날까지”。

"뛰다"が、「跳ねる」からの「心が躍る、ときめく」などにも使う単語なのですが、ここは多分、「その日まで」というフレーズに続けているという点と、ヨンドの人物設定から考えると、「心臓が止まるその日まで」という意味も込められた歌詞になっていると思われます。(切ない…!)

タジョンに”時間”=時計をプレゼントするシーンもよかった!(両腕につけてしまうタジョンが可愛すぎる…笑)

私が好きな名シーンの数々

その他にも、私が何度もなども見返した名シーンの数々。
7話エンディング:タジョンがヨンドの家に戻ってきて、抱き合うシーン
→音楽と二人の演技。そして、窓枠の構図が最高…!
7話エンディング:屋上でのキスシーン
→女性が上位という斬新さ。でも二人の関係性を見事に表現している演出

14話エンディング:初恋の人だとわかり「愛してる」
→何万回もドラマで聞いた「愛してる」の中でもこんなにときめく「愛してる」があったでしょうか…しかももう一度、二人の表情を同時に写す編集…!
こうしてみると、「君は私の春」は、特にエンディングが素晴らしい回が多かったなと思います。
ここに上げていない「え!どうなるの?」と思わせたスリラー要素でのエンディングも含め、次回を気にならせ、余韻を残す、上手いエンディングが多くありました。
そして、こうして名シーンを並べてみると、改めて、チョン・ジヒョン監督の演出が素晴らしかったこともわかります。
大きな窓枠を使った演出が各所で印象的…!
檻に閉じ込められたようなタジョンと母の気持ちを演出する構図
喉にナイフが刺さったような、7歳のタジョンの記憶のシーンでは、極端に縦幅を狭くしているのが、”目をハッキリ開けられないような想い出”ということを表現するような演出で印象的
チョン・ジヒョン監督は、「ザ・キング 永遠の君主」「恋愛ワードを入力してください:WWW」を手掛けた方。
とても感性的なイ・ミナ作家の台本を、もし平凡な演出をする監督が映像化していたら、きっと各シーンがもっとインパクトのない、ありきたりでつまらないシーンになっていたことでしょう。
チョン・ジヒョン監督と組んだこと、そして素晴らしい俳優とOSTに恵まれたことで、ここまでの名シーンが生まれたと思います。

「君は私の春」への韓国視聴者の鋭い指摘

さて、ここまで「君は私の春」のメッセージ性や、記憶に残る名シーンについてお話してきましたが、最後に、そんな「君は私の春」が最終的には名作になりきれなかった理由=残念だった点について、韓国視聴者の秀逸なネット上でのコメント内容も紹介しながら、整理してみたいと思います。

15、16話に対する残念さ

まず非常に多かったのが、15話、16話に対する残念さ。

「こんなに締めくくり方が下手なドラマは初めてだ」

というコメントも多く見られ、先ほど紹介したとおり、14話のエンディングがすばらしかったのに比べ、15話、16話は失速してしまっただけでなく、それまでの感動を打ち消してしまうような残念さが多く目立ちました。

14話のエンディングは本当に最高だった!

韓国視聴者のコメントで、すごく共感したのが、こちら。

14話がエンディングで、15話と16話はエピローグだと思えば、まだ納得できる。

わかる!!!まず、主役の二人のラブストーリーとしては、14話のエンディングが最高すぎたので、15、16話ではそれを超えるものを期待したのですが、なんだかぼんやり終わってしまった印象。

視聴者としてはやはり、最終話では、二人の幸せなその後や、少なくともそんな未来を感じさせるような場面を期待したと思います。

そんな中、最後になって突然、タジョン弟とウナカップルの話が出てきたり(いや、ほんと、アレいらなかった 笑)…観たいものを見せられないまま、今さら周辺人物の新しい話が色々登場してきたことにイライラさせられた視聴者が多かったようです。

スリラー要素の問題点

また、スリラー部分で、視聴者が疑問に思っていたポイントが結局、スッキリ解消されなかったのも大きいでしょう。

これは、視聴者の書き込みの具体的な内容を観ていると、正確には、

作家がすでにそれまでの話数で説明した部分も、わかりにくいせいで伝わっていない部分が多くあること
そもそも匂わせといて、解説しなかった部分もいくつかあること

の両方が混じっており、どちらにしても、結果的にスリラー部分が消化不良な状態で終わってしまったことに違いはありません。

わかりにくくなってしまった理由の一つとしては、これが完全にスリラー作品なのではなく、スリラーを描いていたと思ったら、次の週はラブストーリー一色という、ジャンル混合かつ、毎話でジャンルのバランスが極端に変わる構成であったことも大きく影響したと思います。

私も実際、さんざんラブストーリーに没頭して、「もう事件のことはどうでもいいや…このままロマンス見せて」と思っている頃に、突然また事件の話が出てきても、「あれ?どんな話だったっけ?」と記憶があいまいで思い出せなかったことが多々ありました。

さらに、スリラー部分に関しては、そもそも全体の構成の問題も多く指摘されていました。

双子の話の解説は、遅くても13、14話までに説明するべきだった
作家さん、スリラーというのは最後に一気に説明するんじゃなくて、もう少し小出しにして、視聴者が予想できる余地を残さないと…

ほんと、そのとおり!!
最近、「悪の花」や「怪物」など秀逸なサスペンス作品が連続して誕生したこともあり、「事件の謎をどうやって説いていくか?」という部分についてはかなり視聴者の目線が高くなっています。

視聴者が犯人を予想できる余地を残しながらも、それを上回る謎解きを、適切なタイミングで行っていく構成がとても重要。

いくら作家の頭の中に凄い構成があったとしても、視聴者を置いてけぼりにしてしまっては、謎が解かれる前に離脱してしまうのです。

ここはやはり、作家が過去にスリラーを扱ったことがない、という経験不足が影響してしまったのではと思います。

スリラー部分ついては、私もかなり消化不良だったのですが、後からスリラーだけを見返して、やっと自分なりに消化ができました。
同じように、もやもやしている方も多いと思うので、別記事で、スリラー部分に対する私なりの解釈を整理したいと思います。

メッセージの表現の仕方

さらに、特に16話については、大きく指摘されていたのが、作家のメッセージの表現の仕方について。
16話の後半では、コンビニのアルバイトに、タジョンが飲み物と飴をあげるあたりからの表現について、残念さを指摘する声が多く見られました。
急に自殺防止キャンペーン広告みたいな内容だ
作家さんの伝えたいことはわかるが…なぜそこで本を読み上げる?
作家さん、あなたはエッセイを書いてください、ドラマじゃなくて
私も非常に同感。メッセージ性が重要な韓国ドラマですが、かといって、それをあまりにも直接的にセリフやナレーションにしてしまうのはちょっとイマイチ…。
直接的に表現する以上にもっとメッセージが心に刺さる、素晴らしい脚本や演出を散々見てきた韓国視聴者は、このあたりの表現方法についてはとても厳しい目で評価します。
特に今回は、先に挙げたような、視聴者が観たかったもの、期待したものを無視した展開が続いていたので余計に、作家が自分が言いたいことだけ表現している感じがしてしまい、視聴者の不快感が募ったのではないでしょうか。
中には、「失望した、この作家の作品は今後絶対見ない」という視聴者も結構いたほど、15、16話では完全に視聴者の心を捉えるのに失敗してしまいました。
ドラマ全体に対しては、このようなコメントに私も強く共感しました。
ドラマは短い名セリフよりも、大きな枠組みが重要である点を示したドラマ
ドラマはエッセイ集ではない。癒やされるセリフは良かったが、ストーリーがしっかりしなければならない
「椿の花咲く頃」を目指したと思われるが、作家の実力が及ばなかった
それでも俳優たちの熱演でなんとか観られた。俳優たちには称賛を贈りたい
私も、ここまで、セリフの良さと構成力に差がある脚本に出会ったのが初めてだったため、改めて名作になるためにはその両方が成り立たなければいけないことを再認識したドラマでした。
そして改めて、スリラー・ヒューマン・ラブストーリーを絶妙に融合させた、韓国ドラマ史に残る名作「椿の花咲く頃」がいかに凄かったかを実感しました。
関連記事

 ソウル在住ブロガーMisa今週ついに「椿の花咲く頃」が韓国で最終回を迎えました。Twitterでも放送後すぐに紹介したんですが、いや~これ、すごい作品でした!!コンヒョジン「椿の花咲く頃」が最終話視聴完了。[…]

ちなみに看護師役ペク・ヒョンジュさんは、「椿の花咲く頃」にも出演していました…!

複数ジャンルの融合については、「椿の花咲く頃」以降、流行りなのですが、ただ混ぜればよいということではなく、それぞれの要素が一つの軸を中心にしっかり関連付けられていて、「ジャンルが混ざっている」と感じさせすぎない、自然な融合とバランスが大切です。
今回のように、話数ごとにあまりにも極端にジャンルのバランスが変わる構成だと、視聴者がついていけなくなるということが証明されたのではと思います。
こうしてみると、全体的に、作家の感性が爆発したことが作品に良い影響も与えたが、結果、視聴者を置いてきぼりにしてしまったことが問題だったと言えると思います。
私はここで、韓国視聴者から絶大な支持を受けている「応答せよシリーズ」「賢い医師生活」のシン・ウォンホ監督が、「賢い医師生活2」の制作発表会で話していたことを思い出しました。

作品が愛される秘訣については、実は私たちも作りながらいつも、知りたいと思っている部分です。視聴者のみなさんが何を求めているのか?をいつも想像しながら作らなければならないので、作品が愛されるだろうと確信を持って作品を始めたことは一度もないんです。

クリエイターとしては欲が出てしまうものです。「こんな事もできるんだ」というアピールもしたくなるし。でも私たちがやりたいことよりも、みなさんが観たいものに焦点を合わせることにしました。

関連記事

韓国在住K-dramaライターMisa「賢い医師生活シーズン2」制作発表会の映像から、印象的だった内容を中心にご紹介します! 「賢い医師生活 シーズン2」制作発表会「賢い医師生活 シーズン2」の[…]

今回この作品は、まさにこの、逆のパターンになってしまった、と言えると思います。

しかし、今回これだけの批判が出たことは、確実に作家の耳にも届いていると思うし、次の作品作りに生かされるでしょう。
韓国では「ファンだからこそ、厳しい意見を言う」という批評文化があり、見ていただいた通り、普通の視聴者でも、その内容は専門家並みに具体的で的確なものが多いです。

批評文化については、こちらの記事でも紹介

関連記事

ソウル在住ブロガーMisa韓国ドラマ視聴歴16年、現在韓国在住の私が「韓国ドラマの強さの理由」について、現地でしか得られない情報を元に、シリーズ形式で解説します。今回は、その第一回目「面白い作品が生まれ続ける仕組み」です[…]

そんな、視聴者の厳しい目によって、韓国ドラマは進化し続けられているので、今回の批判も、この作品の制作陣にとってはもちろん、「良いドラマとはなにか?」というポイントを改めて確認させられる良い機会になったのではと思います。
何より、厳しい意見はそれまでの俳優たちの名演技と、セリフと、演出の素晴らしさにハマり、素晴らしい終わり方を期待したからこそ。
是非、今回の視聴者の声を踏まえて、今回の制作陣の次回作は、さらにグレードアップした作品になることを期待したいと思います!!

最後は大好きなこの写真で…(笑)

オススメ!「君は私の春」韓国版OST(名セリフ+フォトブック付き)

最後に

ということで、「君は私の春(너는 나의 봄)」の韓国での作品の反応、この作品の魅力と残念だった点や感想などをご紹介しました!

作品を観終わってモヤモヤしていた方の、参考になれば嬉しいです。
スリラーについては、また別途記事にしたいと思います!

너는 나의 봄(君は私の春)
韓国放送:2021年7月5日〜8月24日
tvN 月・火ドラマ 21:00〜
公式HP

『愛の不時着』を倍楽しむ100以上のネタを詰め込んだnoteを公開中

関連記事

ソウル在住ブロガーMisa今年「愛の不時着」に関して調査・考察したことをすべてまとめたnoteマガジン「不時着のすべて」を公開しました。「不時着のすべて」とは?今年『愛の不時着』を観た皆さんから、ブログにたく[…]

オススメ記事

関連記事

韓国在住K-dramaライターMisa韓国Netflixの2020年年間ランキングで1位の名作「賢い医師生活」。シーズン2のスタートを記念して、まだ見たことがない方向けに、その魅力を解説します!「賢い医師生活」と[…]

関連記事

ソウル在住ブロガーMisa韓国ドラマ視聴歴16年、現在韓国在住の私が「韓国ドラマの強さの理由」について、現地でしか得られない情報を元に、シリーズ形式で解説します。今回は、その第一回目「面白い作品が生まれ続ける仕組み」です[…]

関連記事

韓国ソウル在住ブロガーMisa2021年の百想芸術大賞のドラマ関連の結果を振り返りながら、この1年の韓国現地でのドラマのトレンドと、来年の見通しを分析します!受賞・予想結果一覧ドラママニアにとって、一年に一度[…]

*画像はtvNからお借りしました