韓国ドラマ:強さの理由①面白い作品が生まれ続ける仕組み

ソウル在住
ブロガーMisa
韓国ドラマ視聴歴16年、現在韓国在住の私が「韓国ドラマの強さの理由」について、現地でしか得られない情報を元に、シリーズ形式で解説します。今回は、その第一回目「面白い作品が生まれ続ける仕組み」です。
「韓国ドラマがなぜ面白いのか?」はこちらの著書でより詳しく解説↓
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「強さの理由」をどう読み解くか

今年、日本で韓国ドラマが再ブームとなり、「『愛の不時着』や『梨泰院クラス』をきっかけに、初めて韓国ドラマを見た」という方々から「韓国ドラマってこんなに面白かったんだ!」「今まで思ってたイメージと違う」というような声を多く頂くようになりました。


*出典:『梨泰院クラス』JTBC/HPより

また、今回のブームの特徴として、これまでドラマを見なかったような働き盛りの層の方々が多く視聴したことにより、単に作品を楽しむだけでなく、「何でこんなに面白い作品が作れるのか?」「ビジネスモデルはどうなっているのか?」といった、ドラマ制作や業界全体の構造についての質問も多く頂くようになりました。

そこで今回、「韓国ドラマの強さの理由」を以下の2つの観点から、シリーズ形式で分析・解説してみたいと思います。

視聴者を魅了する面白い作品を作れる理由
韓国ドラマのビジネス戦略と流通の仕組み
日本では、Netflixの登場による制作費の増加や、日本とは形式が異なる制作スタジオが主導するビジネスモデルなどが「ヒットの理由」として語られているのを見かけます。しかし、私自身は「面白い作品を作れる理由」と「面白い作品が世界に届けられるビジネス戦略」は、分けて考えるほうが良いと思っています。

「面白い作品を作る仕組み」は、Netflixや制作スタジオの登場以前から存在していたと考えるからです。

最近、初めて韓国ドラマを観た人たちが、感動しているポイント(役者の演技、脚本力、時代の捉え方など)は、今回日本でヒットした作品だけに突出したものではなく、特にここ10年ぐらいの間で、様々な作品で試行錯誤を重ねてきた結果です。


*出典:『愛の不時着』tvN/HPより

こうしてこれまでも作られてきた質の高い作品が、Netflixと制作スタジオのタッグによる戦略が功を奏し、コロナ禍で世界の人に知られることになったという構造だと私は捉えています。
いくら優れたビジネス戦略があっても、それが魅力的な作品でなければ、コロナがきっかけで見ることはあっても「ハマる」というところまでは至らなかったでしょう。
もちろん、優れたビジネス戦略があるからこそ、「面白い作品を作る仕組み」に投資できる部分もあるのですが、私は「面白い作品を作れる仕組みの本質」は、別のところにあると考えていますので、こちらも解説していきたいと思います。

面白いドラマが生まれ続ける本当の理由

そもそも「視聴者を魅了する面白い作品」とは、何でしょうか?


*出典:『愛の不時着』tvN/HPより

私は「視聴者のニーズを的確に捉えた作品」だと考えます。

ドラマは時代を映す鏡。映画よりも身近で、私たちの日常に近いところにある存在です。時代の変化とともに私たちの日常は変化し、それと連動するように、ドラマに対する視聴者のニーズも変化します。例えば、コロナの前と後では、人々のニーズも大きく変わってきていると思います。

このため、ドラマには「このパターンがヒットする」という永遠の法則は存在しません。となると、作り手が面白い作品を作るためには「いかに視聴者のニーズの変化を敏感に捉えられるか?」が重要になります。

ここで重要な役割を果たしているのが、韓国視聴者の存在です。

2020年のアカデミー賞授賞式では、「パラサイト」のポン・ジュノ監督が「躊躇せずに、率直な意見をくれる韓国の観客たち、映画ファンに感謝したい」と述べ、配給会社・CJエンターテイメントのイ・ミンギョン副社長もこのようにコメントしています。

「韓国映画を見てくれたすべての観客の方々に感謝する。皆さんの意見の力で、私たちはいつも安住せずに、作り手たちが前に進むことができた。いつも映画について躊躇せず、意見を伝えてくれる韓国観客のおかげで私たちはこの席に立つことができている」

これは、そのままドラマでも同じことが言えます。このコメントでも「躊躇なく」と言っていますが、本当に韓国の視聴者の指摘は、容赦がありません(笑)単に「面白い、面白くない」といったレベルはなく、非常に具体的で的確です。

韓国では、作り手の視聴者のニーズを敏感に捉えながら新しいチャレンジをする姿勢と、視聴者の活発な作品への批評文化が作品作りを支えています。この「作り手と視聴者の相互作用」により、時代の変化に合わせて、作品が進化し続けられる環境があるのです。


*出典:『愛の不時着』tvN/HPより

ドラマの重要な要素である脚本や役者の演技が、視聴者を唸らせるレベルであるのも、こうした厳しい視聴者の目にさらされながら努力を積み重ねてきた結果。

視聴者の「もっと面白い作品を観たい」という高い期待と「視聴者の期待を超える作品を作りたい」という作り手側のあくなきチャレンジ。この二つが常に、相互に刺激し合うことで、作品の品質がどんどん高まっていく仕組みがあることが、韓国ドラマが面白い理由であり、強さの本質だと私は考えます。

今回、日本で「愛の不時着」や「梨泰院クラス」をきっかけに韓国ドラマを初めて見た、という方の感想で印象的だったのは、「キャラクターの設定や展開が新しい」ということ。特に女性ヒロインの描かれ方については、日本のドラマとの大きな違いとして注目した方が多かったようです。(これは逆に、韓国ドラマ歴が長い私には無かった新鮮な視点でした。)


*出典:『梨泰院クラス』JTBC/HPより

ある時までは、時代の鏡だったはずのドラマが、日本では、どこかの時点で時代の変化や視聴者の感覚とは乖離したものになってしまったのではないか。韓国ドラマでは、当然のものとして描かれるイマドキのキャラクターたちの設定を見て、そんなことを考えるきっかけになったのかもしれません。

影響しあう作り手と視聴者

「作り手と視聴者」という、日本で考えるとあまり関わることがないように思える両者が、韓国では相互に影響を与えるのには、環境的な側面と文化的な側面があると考えます。

まず、環境的な側面です。韓国では日本よりも早くからブロードバンドが各家庭に普及し、インターネットで作品を観る環境や、作品の評価を投稿する場が、早くから生まれていました。ドラマの写真なども公式HPで数多く公開されており、ブログなどで、視聴者が作品を批評したり、分析するための材料も整っています。

この「ファンに素材を提供する・権利を厳しく制限しない」というスタンスは、日本と大きく異なるところで、K-POPの成功の理由を語るときにもよく使われますが、ドラマでも同じことがいえると思います。

各放送局のホームページには、ドラマの場面写真・オフショット・代表イメージが公開されている。

次に、文化的側面です。韓国視聴者が活発に作品の評価や分析を行う背景には、まず何より韓国人がエンターテイメントが大好きだということ。(この辺りも今後詳しく解説します。)

そして、エンターテイメントに限らず、自分の意見をインターネット上で表現する習慣、また「ファンだからこそ厳しい意見を言う」という韓国のファン文化があります。

一方、制作側も、ドラマのクリップ映像や予告編はもちろん、メイキングやインタビュー動画、制作発表会の様子など「作る過程」や「作り手の想い」まで積極的に発信しています。

日本では考えられませんが、さっき見たばかりのシーンの裏側がわかるメイキング映像が、放送数時間後にはネット上に公開されます。これらを通じて、視聴者はより作品や作り手に共感・没入していきます。また、作り手側の発信を通じて、視聴者もまた、作品を観る目を養うことができるのです。

韓国で最も使われているポータルサイトNAVERでは、全てのドラマの情報がわかりやすくまとまっている。

視聴者掲示板では、リアルタイムで視聴者の反応を知ることができる。

監督や脚本家たちが、これら視聴者の声を非常に良く分析しながら、作品作りに活かしていることは、ドラマの制作発表会やインタビューからもうかがえます。

例えば、ドラマの制作発表会を見ていると、制作陣と記者との間でこのようなやり取りが行われることがあります。

記者「(同じ作家の)前作では、視聴者から、中盤以降の展開についての○○という指摘があったが、この点今回はどのように考えているのか?」
監督「その点については、作家とも十分に議論をして、今回は△△というところに気を付けて構成を練っている」
実際に、同じ脚本家・監督の作品を連続して見ていると、前作で批判を受けた点を、次の作品では明らかに意識して改善したなと思うことが良くあります。

最近はYouTubeでの作品分析も盛ん。単なる感想ではなく、専門家も顔負けの鋭い分析が並ぶ。視聴者同士で「作品の見方」を教えあう役割も果たす。

この記事冒頭では、韓国視聴者のドラマ分析について簡単に紹介しています。

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こう書くと、「あ、韓国では視聴者の声でストーリーが変わるんですよね」という声が聞こえてきそうですが、それはもはや昔の話。

制作環境の変化により、「冬のソナタ」の時代によく言われたような、いわゆる「撮って出し」というようなことは、今はなくなってきています。(この辺りの制作環境の変化についても、今後解説します。)

むしろ、そのような「目先の声」にこたえるのではなく、視聴者のニーズの一歩先を行き、観る人を唸らせるような質の高い作品作りのために、制作スタッフ・俳優・脚本家たちは、常にアンテナを張り巡らせ、日々研究を重ねているのです。


*出典:『愛の不時着』tvN/HPより

ちなみにこの「韓国視聴者がどのようにドラマを観て、作品作りに影響を与えているか?」という部分は、日本からはなかなか知ることができない部分ではないかと思います。

私も、韓国で住み始めてから、韓国人がどのようなスタイルでドラマを視聴し、評価しているのかをリアルタイムで知ることができるようになったわけですが、視聴のスタイルも、これまで観てきた作品の数も、作品を評価する視点の深さも、日本とは大きく異なるものであることに驚かされました。

このブログで、私が当初から「韓国での評判・韓国視聴者の分析」を中心に紹介しているのも、この「韓国視聴者の存在」こそが、韓国ドラマを進化させるのに欠かせない重要な役割を果たしていると実感しているからです。

韓国コンテンツはグローバル視点?

よく「韓国コンテンツは、初めから世界を狙っているから強い」という話を聞くことがあります。

ビジネス戦略という面ではそうかもしれませんが、「作品作り」という観点では、私はこの説明に違和感を感じます。

少なくとも現時点では、「作り手が世界の視聴者を意識している」というよりは、世界一目が肥えた韓国視聴者に評価される作品を作ることが、結果として世界の視聴者にも受け入れられるクオリティを生み出していると思います。

というのも、実際に韓国に住みながら、韓国人と話をしていると、彼らが昔から、韓国国内の作品だけではなく、海外の作品にも多く触れてきたことが良くわかります。ドラマ、映画、そして音楽まで、マニアでなくても「海外の作品を良く知っているな」と驚くことが多く、日本よりも「常に国内外のエンタテインメントが身近にある」環境であると感じます。

このように一般人でも、観ている作品の数や多様さに驚きますが、もちろんドラマの作り手となると、さらに海外のマニアックな作品まで研究し尽くしていることは、インタビューなどからも明らかです。こういった意味で、視聴者も作り手も、作品を観る目は世界標準と言えます。

今後は、Netflixの登場で、世界中の視聴者の視聴データが取れるようになり、海外に焦点を合わせた作品なども出るかもしれません。しかしやはり、国内に率直な意見を伝えてくれる、目の肥えたドラマ視聴者たちがいることは、作り手にとって心強い武器となるでしょう。


*出典:『サイコだけど大丈夫』tvN/HPより

最もシンプルで大切なこと

この「視聴者と作り手の相互作用」ということは一見地味な解説のように思えるかもしれません。

しかし、ビジネスの世界で考えると、商品・サービスの改善サイクルが常に成り立っていることは、変化が激しい業界においては成長のための重要なポイントです。

「常に視聴者の厳しい目にさらされている」という環境が、作り手の成長を促し、様々な決断が「良い作品を作る」というシンプルな基準でなされるという、最も基本的で重要なことを成り立たせています。これこそが、韓国ドラマが強い最も本質的な理由です。

一方で、日本のドラマの環境はどうなのでしょうか。日本のドラマ制作については、得られる情報が限られますが、こちらの記事などを読むと、作り手と視聴者の関係性は、韓国とはだいぶ異なるように感じます。

様々な理由で、この最もシンプルで当たり前のことができなくなってしまった…昨今、日本で視聴者に支持されるドラマが少なくなってしまった要因が、この辺りにあるのではないかと思います。(こうなってしまう背景には、収益構造や視聴環境の違いも影響していると考えるため、この辺りも今後解説していきます。)

まとめ

さて、今回まず初めに、私が最も重要だと考えている「視聴者と作り手の相互作用」について解説しました。

今回はどちらかというと総論になりましたが、これを中心として、作り手側のこと、視聴者側のこと、そしてビジネス戦略と流通の仕組みについても、今後順を追って一つ一つ詳しく解説していきたいと思います。

なお、私は「韓国ドラマが最高で、日本のドラマがダメだ」と言いたいわけでは、決してありません。
元々は、私も日本のドラマが大好きだったファンの一人であり、就職活動ではドラマ制作会社を受験するなど、作り手を目指したこともあります。

ただ、2004年に韓国ドラマに出会ってからは、自然と韓国ドラマのほうに心惹かれ、気が付いたら韓国にまで来てしまいました(笑)私自身、価値観が揺さぶられるような「人生ドラマ」に数多く出会う中で、自分がこれだけ揺れ動かされる韓国ドラマがどのように作られるのか?なぜこんなに感動するのか?を深く知りたくなりました。

今回はそのオタク的自由研究の結果(笑)を、皆さんにも紹介しながら、「好きだからこそ厳しい意見を言う」という韓国のファン文化にならって、「日本のドラマはそこから何が学べるのか?」についても、少し考えてみたいと思っています。

いつものブログ記事と比べると、やや堅苦しい部分もあるかもしれませんが、ご興味がある方は、次回も是非ご覧いただければ嬉しいです。

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*ドラマの写真はtvNからお借りしました。

Misa執筆記事

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