こんにちは、Misaです。日本に一時帰国中にどうしても見たかった映画「金子文子と朴烈」。2月16日から日本公開していて、東京でもミニシアターでしかやってないんですが、この作品、凄かった…!!!
まだ公開中なので韓国に興味ある皆さんには、是非!是非!観て欲しいです。ということで、概要と見どころをご紹介します!
あらすじ概要
1923年関東大震災後の混乱の中、囚われたふたりは、愛と誇りのため、強大な国家に立ち向かう。韓国で235万人の動員を記録した、激しくも心揺さぶる真実の物語。
関東大震災の混乱の中で、日本政府は人々の不安を鎮めるため、朝鮮人や社会主義者らを無差別に拘束します。中でも、根拠のないデマにより多くの朝鮮人が虐殺されていきます。
そんな中で捕まった、朝鮮人アナキストとその妻である日本人の文子。
政府の思惑により、大逆罪がでっち上げられていきます。当時の大逆罪=死刑。そんな過酷な状況でも、自らの信念と愛を付き通す2人の様子を描いた物語です。
映画が始まると、すぐにこんな字幕が出ます。
この映画の登場人物はすべて実在の人物です。
そう、これ全部実際に起こったことなんです。この朝鮮人虐殺事件自体も詳しく知らなかったし、こんな韓国人と日本人の夫婦がいたことも驚きだし、これが日本でほとんど語られてこなかったことも…とにかく色々衝撃でした。ほんと、毎回、韓国映画で歴史を勉強させられます。
そしてこれも毎度のことながら、本当に役者の演技が素晴らしい!!また、「韓国映画史上、最も日本人役の日本語レベルが高い映画」であると言えるでしょう。
また、めずらしく日本人俳優も多数出演しているのは、「日本と朝鮮の対立を描くのではなく、朴烈の生涯と信念を世間に知ってもらいたかった」と、20年も準備して作品を作り上げた監督の熱い想いに、役者やスタッフが共感した結果なのではないかと思います。
出演者と韓国での受賞歴
韓国での公開は2017年。原題は「박열(朴烈/パクヨル)」。
日本で公開するにあたって、日本人妻の文子にスポットを当てこの邦題になったんですね。ということで、韓国ではポスターも雰囲気が違います。パクヨルがメイン。
邦題に惑わされて気が付きませんでしたが、これ2017年の大鐘賞(韓国で有名な映画賞)で5冠を獲った作品なんですね。それくらい、映画としての評価も高い作品と言えます。賞を取る映画=良い作品いうわけではありませんが、この映画については、受賞の理由がわかる作品だと言えます。
なお、日本版のポスターには、「韓国では235万人の動員を記録した」と書いてあります。これを観ると、日本人は「韓国でもすごくヒットした作品なのね」と思うかもしれません。
しかし、これは決してヒットとは言えない数字です。。というのも、韓国の動員数って半端ないんです。比較してみるとわかりますが、
タクシー運転手 約1200万人
ボヘミアンラプソディー 約990万人
という規模なので、235万人だと「映画好きの人が見に行った」というくらいなのではないかと思います。この時代の映画自体、テーマが重いので、韓国でもあまり人気はありません。実際、この映画も内容的には、韓国人が観ると辛い部分がたくさんあります。
ということで、韓国で大衆受けするような映画では無かったと思いますが、これは日本人こそ観てもらいたい映画だと思いました。
なお、パクヨル役は、若手実力派俳優のイ・ジェフン。ドラマで見るのとだいぶ雰囲気が違うので最初気が付きませんでした!最近だと「シグナル」「キツネ嫁星」に出てましたね。
そして、文子役は、チェ・ヒソさんという方。まだ新人の俳優さんで、この映画でかなり賞を総なめにしたそうです。
この女優さんが、本当に凄いんです!!!(もちろん、イ・ジェフンは安定の素晴らしさなんですが)
この映画の魅力の半分は、この女優さんではないかと思うくらい。詳しくは、次の見どころでご紹介します(極力ネタバレなしで)
それから、この俳優さんも出ています!ミン・ジンウンさん。
ドラマ「アルハンブラ宮殿の思い出」映画「言葉集め」など、最近見る作品でおなじみなので、これからどんどん出演作が増えそうです。今回とても流暢な日本語だったので、同じく日本語を使用する映画「言葉集め」に出演した理由がわかりました。
見どころ1)国の対立・差別を超えるもの
映画では、当時、朝鮮人を不当に差別・弾圧して、人々の不安を抑えようとする日本政府の様子が描かれます。もう、見ているだけで腹立たしく、ある意味、笑いたくなるような滑稽なやり取りも沢山出てきます。
でも、これまで観た他の映画と比べても、変な誇張もなく、「きっとこれが事実に近いんだろう」と思わせるリアルさがあります。日本人でも朝鮮人を応援する人がいたり、パクヨルが率いるアナキスト集団にも日本人が参加していたり、「〇〇人だから」という描き方をしていないというか、できるだけ事実に即して再現していることがわかります。
パンフレットに、こんな監督のコメントが紹介されていました。
アナキストである朴烈は民族主義者とは大きく違い、人間対人間という公明正大な視点に基づく価値観で生きていました。私は、”悪の日本 対 善の朝鮮”というような対立構造の映画にはしたくなかったのです。
こうやって作られた作品だからこそ逆に、変な反日映画よりも、当時の日本政府の身勝手さや、日本に今も残る朝鮮人差別の怖さがリアルに表現されていて、日本人には胸に突き刺さるものがあるのです。
私がこの映画を観た日は、偶然にも韓国の独立記念日の3月1日。ちょうど昼間、日本のワイドショーで、「韓国では反日感情が高まっていて危険」「韓国にいる日本人に外務省が注意喚起」という話題が取り上げられていました。
映画の中でも「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人は危険なので排除すべき」と根拠のないデマが拡散されていく様子が描かれますが、映画を観ながらこの二つがリンクしてきて、「今、日本で繰り広げられている韓国に関する報道は、まさにこの当時のデマと変わらないんじゃないか」と、何とも言えない憤りを感じました。
そんな中、映画冒頭で出てくるパクヨルのセリフが印象的です。
闘うのは国家であって、民衆は敵ではない
監督も言っているように、パクヨルは、このような公明正大な視点に立った価値観で生きていたことが、映画の中でも随所に表現されています。そして、文子もまたそうなのです。国と国との対立や、民族差別に振り回されず、自らの頭で思考し、自分自身の人生を生きる2人…これが、今こそ、多くの方にこの映画を観てもらいたい理由です。
日本人の一定の世代以上の人たちに、子どもの時からなぜか刷り込まれている、韓国人への差別的意識がどうやって醸成されていったのか。それに憤りを感じる一方で、2人の様子を見ていると、国の対立を超えて、日本人と韓国人が人と人として、こうやって理解しあい、結びつきを深めていくことができるという希望も感じられます。
また、こんな重たいテーマにもかかわらず、随所に笑いも起きるのもこの作品の凄み。実際のパクヨルと文子のたくましさ、前向きさをリアルに表現していることももちろんですが、作品としてのエンターテインメント性も忘れないところは、さすが韓国映画という感じ。
見どころ2)史上最高レベルの日本語
先にも書いた通り、この映画の韓国人役者の日本語レベルは過去最高レベルだと言っても過言ではないと思います。
これまでも数多く、この時代の映画を観ましたが、韓国人俳優の日本語は、どれも日本人には字幕がほしいほど違和感があるものばかりでした。
しかし、この映画は見ているうちにこれが韓国の映画であることを忘れてしまうほど、役者の日本語が流暢です。あまりにも上手なので、「この人、もしかして日本人?」とキャスト情報を確認した俳優さんが何人もいました。(結果、みなさん韓国の俳優さんでした)特に素晴らしいのが、文子役のチェ・ヒソさん。
幼少期を大阪で過ごしたそうで、まったく違和感がないほど流ちょうな日本語です。むしろ、撮影では大阪弁を直す練習をしたそうです。(ちなみに、アメリカにも住んでいて英語も堪能なんだとか)
そして、この女優さんがすごいのが、「日本人が話す韓国語の発音」まで完璧に再現しているんです!!「日本人である文子が、韓国語を話す」という設定なので、文子が韓国語を話すときは、日本人的な発音で話すんですが、これが、本当に上手!!なので、途中から「あれ?この人日本人?」と混乱してきたほど。この作品のため、ものすごい努力をされたことがわかります。
こちらの予告編を見ていただくと、少しわかります。
おそらくですが、監督ができるだけリアルに作品を作り上げることをこだわったこと、参加している日本人俳優による指導などもあったのではないかと推測します。作品中、半分以上が日本語なので、この日本語の流暢さがなければ、日本人が観るのには耐えられなかった(=日本公開は難しかった)のではと思いますが、監督の想いに俳優が応えたおかげで、この作品が日本でも公開されることにつながったと言えるでしょう。俳優さんの努力には脱帽です!!
翻訳家の斎藤真理子さんが、
この金子文子は日本人には決して描けなかった
と、コメントを寄せられていましたが、本当にそう思います。
金子文子だけでなく、この映画自体、韓国のスタッフと韓国の俳優の演技力がなければ、このように素晴らしい作品に仕上げることはできなかったでしょう。あ~、だから韓国映画って好きなんですよね!
まとめ
というわけで、是非多くの方に見ていただきたい作品。現在は、Amazon Primeで見られるようになっています。是非一度見てみてください!
※映画の画像は、すべて出典:NEVER